温泉は「ハシゴ」してこそ面白い。/別所温泉

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【長野県:別所温泉/上田温泉】

 

ガタンゴトン、ひとり列車にゆられ・・・

通り過ぎてゆく信州の田園風景を、ただボーっと眺める。

 

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上田電鉄・別所線は、上田駅と別所温泉をむすぶローカル線である。

列車にはこのようなレトロな感じの丸窓がついていて、より郷愁をさそう。

 

30分ほどで、終点の別所温泉駅に着いた。

駅舎の改札では、和装に袴履きの女性駅員が迎えてくれる。

 

別所温泉は、伝説によれば平安・鎌倉時代から湯治場として栄え、

近世には真田家の隠し湯、昭和になってからは川端康成、池波正太郎らの

文豪にも愛された、信濃を代表する名湯である。

 

昭和といえば、別所温泉は

映画「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」(昭和51年)の舞台にもなった。

 

温泉宿で、旅の一座に大盤振る舞いをしてドンちゃん騒ぎをしたものの、

金を持っていなかったために警察の厄介になった寅さんを、

妹のさくらが別所線に乗って引き取りに来る、という展開だった。

 

町並みは、その映画に映っていたころとほとんど変わっていないように見える。

むろん、細かいところは色々と変わっているのだろうが、素朴そのものの光景・・・。

 

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平安・鎌倉期からの歴史を持つ北向観音、国宝の八角三重塔を有する安楽寺など、

社寺仏閣が多い門前町でもあり、所々点在する社などは結構な人で賑わっている。

「信州の鎌倉」と呼ばれるように凛とした佇まいがある。

 

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さて、わざわざ足を運んだ、いちばんの目的は温泉。

北向観音の境内の手水鉢にも温泉が使われているのを見ると、

長年、温泉がもたらす恩恵によって育まれてきた町なんだなあと実感できる。

 

共同浴場は全3ヶ所。

まずは温泉街のいちばん奥のほうにある「石湯」から入ることにする。

 

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建物の脇に「真田幸村公 隠しの湯」と刻まれた碑が建つ。

いかにも私のような歴史好きが喜びそうなシチュエーションだが、

歴史上、真田幸村が別所温泉に入ったという記録はなく、

これは残念ながら史実にもとづくものではない。

 

ただ、池波正太郎が小説「真田太平記」の中で、

幸村がよくここに浸かりに来る描写があるので

町のほうでも「幸村の湯」としてPRしているのだろう。

 

まあ、真田家の本拠地・上田から近いので、

幸村もひょっとしたら訪れたことはあったかもしれないが…。

 

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中はご覧の通り小さな岩風呂で、古き良き湯治場の面影をよく残している。

湯は単純硫黄泉で、ほのかに硫黄のにおいが、

たしかな効能と気持ちの良さをうかがわせる。

 

市街に湧くボーリングの湯とはひと違う、

少しトロみのある泉質は、まさに山中から湧く天然の香りがする。

残念ながら、石湯は源泉かけ流しではなく循環のようだった。

少し狭いが、それでも十分に気持ちがいい。入浴料は150円。

 

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すぐ近くにある「大師湯」にも入ってみた。

古風な建物に期待感が高まるが・・・

中の風呂場はごく普通の銭湯を思わせるようなタイル貼りで、風情に欠けた。

 

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だが、ここは源泉かけ流しで、ざぁざぁ勢いよく源泉が湯船に注がれている。

そのためか、湯の質は石湯よりも格段に良い感じがした。

狭いが、本当に浸かり心地がいい。気分が落ち着く。

 

これで檜造りか岩風呂だったら最高なのだが・・・。

うまいこといかないものである。料金は同じく150円。

 

温泉をハシゴして火照った体をさましつつ、

最後のひとつ「大湯」にも行ってみたが、この日はあいにく休業日…。

こちらは木曽義仲が負傷した兵を療養させるために造らせたという。

 

どこまで本当かは分からないが、古の武将たちの名が、

こうして色々な場所に残っていることは、

歴史好きとしては嬉しいし、興味深いことに変わりない。

 

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温泉街には懐かしい雰囲気の飲食店も多く、

大いに食指を動かされたので、なにかつまみながらビールでも飲むか、

それとも、信州名物の手打ち蕎麦でも手繰ってみようかと思ったが・・・

 

午後3時を過ぎると、ほとんどの店が早くも店じまいを始めた。

自慢の手打ち蕎麦の店も数軒あるが、いずれも3時で閉店してしまった。

 

平日だからだろうか? 土日なら、少しは違うのだろうか?

まだ日も高いというのに、一気に寂しくなった温泉街に、ただポカンとたたずむ。

温泉で癒された体が急速に冷えてきた感じがした。

 

じつは、この日は別所での宿泊もあきらめていた。

理由はひとりで安く泊まれる宿がないため、である。

 

事前に電話したところ、2軒ほど一人客を受け付けてくれる宿があったが、

1軒は素泊まりでも1万円が最低料金とのことで、もう1軒は「満室」とのことで断られた。

 

この日の温泉街の混雑具合からいっても、

満室はありえないと思ったが・・・ひとり客だから体よく断られたのだろう。

まぁ、宿の人にそういわれては諦めざるを得ない。

 

別所温泉は、宿泊料金も全体的にお高めだし、湯治客よりも観光客が中心のようだ。

なんとも融通の利かないこと・・・。

 

歴史ある湯治場なのに、2食付き・2名以上というお決まりの前時代的風習を

ひきずった宿ばかりの観光地というのが実情ということか。

 

そういう事情があったので、せっかくの「ひなびた」風情も空気も、

来たときから、ちょっと冷たく感じられ、急な距離感を覚えていたのである。

 

まあ、泊まってみないと分からない部分もあるし、

一度は2人以上で来て、1泊して再評価したい気もする。

 

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せめてもの慰めに、4代続くという老舗「鎌原商店・本店」で、

厄除「温泉まんぢう」を買い、ひとつふたつ、つまみながら別所線で上田駅へ戻った。

 

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上田は名城「上田城」で名高い、戦国大名・真田家のふるさとだ。

駅前の真田幸村像に挨拶し、さっそく宿へと向かう。

この日に泊まった宿は、駅から歩いて3~4分のところにある、

上田市街では唯一の温泉宿「ホテル祥園」。

 

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宿泊したのは今回初めてだが、なかなか歴史の長いホテルのようだ。

普通のシティホテルなのだが、ここの売りはなんといっても温泉浴場があること。

 

ホテルに大浴場があるだけでもうれしいのに、

温泉付きなのだから言うことなし。

 

上田温泉なので、一応は一軒宿ということになろうか。

風情も湯の味わいも別所温泉には及ばないし、源泉かけ流し、というわけにもいかないようだが、

市街ということを思えば、十分に満足できる広さと湯の質だった。

 

しかも、向かいにある別館の岩風呂も利用できる。

この日は素泊まりで6000円だったが、プランによっては、もっと安い部屋もあるとか。

体を癒すには、狭くて混雑していた別所の共同浴場よりも、

このホテルの湯のほうがむしろ、いいかもしれない。

 

湯上がりに、さっそく一杯やるため駅前へ戻る。

目当ての店は、駅前のすぐ左にあるビルの地下。この地下にはわりと粋な店が数軒並んでいるのだ。

 

そのうちの一軒が「ろばた焼き 幸村」。

カウンター席と小上がりの座敷が数卓あり、

真田十勇士の絵なども飾られて郷土色豊かだ。

 

いきなり頼んでしまったのが、地酒・六文銭である。1合360円。

キンと冷えたのを、なみなみ注いでくれる。

 

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日本酒とくれば、信州名物「馬刺し」。

たまらん。舌の上でとろけるようなこの食感が。

 

六文銭のほかには、よその地方(東北など)の酒ばかりなのが残念。

これで信州の地酒をもう少し沢山置いてくれたら完璧なのだが。

長野に来たら長野の酒が飲みたいのである。

 

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その後に注文したのが「くるみ餃子」と、りんごハイ。

ご主人お勧めの、この餃子は名前の通り、中にくるみが入っている。

大きめの餃子2個は、けっこう腹に溜まる。

旅館の夕飯では、まずこういう料理は味わえないだろう(笑)。

 

りんごハイは、色でも分かるが、

ちゃんと信州のりんごジュースで割ってくれるので、

気をつけなくては、ずんずんと杯が進んでしまう。

 

別所温泉で食べそびれた蕎麦を食べたくなったので、

同じ地下街にある、蕎麦どころ「東都庵」へ。

 

創業が明治20年、割と人気のある手打ちの老舗。

勢いあまって、つい「天ざる蕎麦」を頼んでしまった。

 

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天ぷらを肴に飲んだのが、この「蕎麦焼酎のそば湯割り」。

 

そば湯で割った蕎麦焼酎は、じんわりと沁み込むような喉越しと深い味わいである。

こんな贅沢は、蕎麦どころならでは・・・。

 

別所温泉に泊まれなかったのは残念だったが、

それ以上の楽しみを、市街地の上田で見出すことができたので満足だった。

 

上田の駅前も、東京で見かけるようなチェーン系の店ばかりが目立ってきたが、

こういう個人経営の店に末永く頑張ってもらい、

未来永劫、旅行客の心と舌を楽しませ続けてほしいものである。

 

●記事:哲舟

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mail5555

2013-08-14 | Posted in 関東/中部No Comments » 

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