熱!でも、いい湯質。さすがは西郷どんの湯だね。/日当山温泉

IMG_0187

 

【鹿児島県:日当山温泉】

 

鹿児島は霧島の日当山温泉郷(ひなたやまおんせんごう)は、

2人の偉大な歴史の人物のゆかりの温泉地でもあった。

ひとりは坂本龍馬。

薩長同盟の立役者である龍馬は、日本人で初めて

新婚旅行をした人であることでも有名だ。

歴史を大きく動かした大事業を成し遂げた龍馬が、

その妻、おりょうと新婚旅行に訪れたのが、ここ日当山温泉郷もふくむ霧島だった。

龍馬とおりょうは、霧島で約一ヶ月半もの間、温泉三昧の日々を満喫したという。

寺田屋事件で負った傷の治療もかねての湯治の旅だったとはいえ、

人並みはずれてめまぐるしかった龍馬の人生において、この新婚旅行は、

生涯でもっとも平穏だった、かけがえのない一ヶ月半だったのではないだろうか。

龍馬が京都の近江屋で刺客の剣に倒れるのは、その翌年のことだ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

日当山温泉郷の、ふたり目のゆかりの人物は、

明治維新の英雄、“西郷どん”こと西郷隆盛である。

実は、龍馬の新婚旅行の地として、ここ霧島をすすめたのも、

ほかでもない霧島のジモティーである西郷隆盛だった。

 

西郷隆盛は大の温泉好きでもあった。

そして、ここ日当山は、そんな彼がもっとも足しげくかよった温泉地だったという。

征韓論問題のごたごたを発端に、政治の舞台から身を引いて、

ふたたび西南戦争で、表舞台に不本意ながらも“朝敵”として戻って、

戦場でその生涯を終えるまでの10年間、

西郷どんもまた、ここ日当山で、おだやかな日々を楽しんだのである。

 

日当山温泉郷のまんなかに、ゆったりと天降川(てんそんがわ)が流れている。

この風景は、西郷隆盛がかよっていたころと、それほど変わっていないはずだ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

さて、そんなふうに幕末のふたりの英雄を惹きつけた日当山温泉郷は、

今では、さぞかし人気の温泉地になっているんじゃないか?

普通は、そう思うだろう。

ところが、どっこいなんですね、この日当山は。

 

まず、駅は誰もいない無人駅。

駅前にはロータリーはおろか商店もひとつもない。

タクシー乗り場もバス停もない。

そこは確かに温泉の町なんだけど、温泉旅館はごくごくわずかしかない。

でも、地元の人のための入浴施設ならいっぱいある。…と、そんな町なのだ。

つまり観光客が来ることなんかほとんど前提としていない温泉地なのである。

 

IMG_0107

せっかく西郷隆盛が愛した温泉地に来たのだから、西郷隆盛が愛した湯につかりたい。

というわけで、宿はその名もズバリ「西郷(せご)どんの湯」にとった。

「西郷どんの湯」は入浴施設に湯治客が宿泊できるの別棟がついた施設である。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

宿泊は食事なしの素泊まりのみ。宿泊料金は、なんとなんと、驚きの1700円だ。

そんなに安いのだから、エアコンとかもないかもなあ。

今年の残暑はきびしいからそれはキツいけど、まあ、1700円なんだからな、

覚悟しておこう。…と、そんなつもりでチェックインしたのだけど、

あれ?フツーの民宿と同じじゃん。

冷蔵庫こそないけれど、エアコンもテレビもあって、

部屋も掃除が行き届いているし。

部屋によっては、窓を開けると目の前は天降川という贅沢なリバーサイドの

部屋まであるのだから。これで、たったの1700円か。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ちょっとした感動にひたってから、まずはひとっ風呂浴びようと、外に出た。

さっそく西郷どんゆかりの湯に浸かりたいところだったけど、

実はその前に行きたい湯があった。

 

ここ日当山温泉郷には、田んぼの中にたたずむ“秘湯”があるというのだ。

 

田んぼの中に温泉があるだって?

そういわれても、頭のなかでまったく像がむすばない…

聞けば、その温泉は、ここから3km以上もあるという。

タクシーに乗っていけばすぐかもしれないけど、それじゃあ興ざめなんで、

ちょっと遠いけど、歩いていこう。そうしよう。そうしよう。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

で、3kmちょっとの道のりを歩いていくと、

だんだんと、まわりが田園地帯になってきた。

地図で見るとここらへんだなあと、あたりをキョロキョロ見渡すと、

お! 温泉マークが描かれた小屋のような

建物が、田んぼの向こうに見えるではないか。

まるでその小屋のような建物は「ここに温泉があるぞ~!」と、

こっちに手を振っているようにあったのだった。

 

あれに間違いない。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

津曲温泉。地元の温泉組合が経営する無人の入浴施設である。

なんのためにこんな田んぼのなかにあるのかは、いうまでもない。

農作業の疲れを癒すための入浴施設なのである。

ここに来るのは、地元の農業の人か、かなりコアな温泉マニアだけだ。

入浴料は150円。無人なので、野菜の無人販売所みたいに料金ボックスに

料金を入れて入浴する。

赤茶色に変色した湯船が時間の蓄積と、温泉の効能を感じさせる。

湯は熱めでつかったとたん濁音入りで「あ~っ」と思わず声が出る湯だ。

う~ん、これは身体に効きますねえ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

津曲温泉の熱めの湯を堪能して湯上がりのほてった身体で、施設をでる。

目の前には田園風景がある。それは、ちょっとシュールなくらいに新鮮な感じだった。

さて、念願の田んぼの中の“秘湯”を満喫できたので、宿へもどろう。

宿への道すがらに思ったことは、ホント、ここでの温泉は地元のための

温泉がたくさんあるなということだった。

天孫川の両岸には「温泉」と書かれた看板やネオンが多く見られて、

なかでも「へぇ~」と思ったのは“家族湯”という入浴施設だった。

よく郊外の幹線道路沿いにプレハブ小屋を並べたようなカラオケボックスが

あるけれど、“家族湯”はそれの“温泉版”のような入浴施設なのである。

しばらく見ていると、たしかに家族が車で乗りつけてやってくるではないか。

家族湯…、うん、その名にいつわりはない(笑)

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

あと、ちょっとウケたのが温泉つきアパートだ。

温泉つきマンションといえばアパマンションが思い浮かぶけど,

日当山温泉では、マンションではなくアパート。

しかも昭和の刑事ドラマに出てきそうな鉄の階段が渋いアパートだ。

なるほど、これは、なかなか…、うん、そうそうあるものじゃない。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

途中、しゅじゅどん温泉という、これまた年季が入った入浴施設があったので入ってみた。

しゅじゅどんとは、徳田大兵衛という江戸時代に実在した、

とんちで名高かった人物のことで、その人の相性が侏儒どんというだそうだ。

しゅじゅどん温泉の入浴料は200円。ひと月3000円で何度でも入り放題なので

湯治場としても地元で人気のようだ。

湯船は上湯、下湯、寝湯の3つがあって、下湯から入るのがルール。

お湯は無色透明でわずかにとろみがあっていい感じ。身体にじわりとくる湯だ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

宿に戻ってさっそく西郷どんの湯につかってみた。

西郷隆盛が通っていたころは共同浴場があっただけで、宿はなく、

目の前の民家に泊めてもらっていたのだという。

その民家は今は跡形もないが、日当山駅近くの蛭子神社に

「西郷どんの宿」として復元されている。

西郷どんの湯の湯船はふたつあって、やや熱めの湯と熱めの湯に分かれている。

湯は無色、しゅじゅどん温泉と同じようにややとろみがあって、身体にしみわたる。

熱めの湯のほうは温度計を見たら46℃を指していた。

西郷隆盛もこんな熱い湯につかっていたのだろうか?

でも、イメージ的に、ぬる湯よりも、熱い湯につかっていそうだ。

たぶん、平気な顔してざぶんと豪快にと入っていたのだろう…

(いかにもステレオタイプな想像でスミマセン…)

そんなことを考えながら、熱い湯にしばらくつかってみたが、いや~、もう限界!

たまらず隣の湯船に退散。

でも、この刺激、なんだかクセになりそうと、思わなくもなかったけど。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

西郷どんの湯の入浴客のほとんどが地元の人らしく、顔見知りのようで、

ごく自然に言葉をかわしあっている。それがとってもいい感じで、

ただひとり、よそ者としてそんな空気にひたっているのも、なんだか心地よかった。

 

この西郷どんの湯も、しゅじゅどんの湯も、田んぼの中の湯も,

地元の人に親しまれている、まったく飾り気のない温泉で、150円とか200円とか、

そんな缶コーヒーに毛が生えたような金額で入れる温泉ばかりだ。

しかも、さすが西郷どんが愛しただけあって湯質はとてもいいのだ。

 

日当山温泉郷。観光目的で行くようなところではないけれど、

温泉好きは行く価値ある。霧島とセットで行けば旅としても

おもしろいものになるのではないだろうか。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

西郷どんの湯  http://urx.nu/6cQe

 

記事:ショチョー

※当サイトのすべての文、画像、データの無断転載を堅くお断りします。 

2013-09-30 | Posted in 四国/九州No Comments » 

関連記事

Comment





Comment