激渋看板に吸い寄せられて…/磐梯熱海温泉・湯元元湯・宝の湯
【福島 磐梯熱海温泉・湯元元湯・宝の湯】
磐梯熱海は、なぜ磐梯熱海という名前なのか?
それは…
温暖な観光地の指宿が日本のハワイと呼ばれたように、
良質な温泉がたくさんあるこの地は、
いつしか「磐梯の熱海」と呼ばれるようになったのである…
と、いうのは真っ赤な嘘で~
本当は、今を遡ること820数年前、頼朝の奥州藤原氏征伐を機に
この地を治めることになった伊東祐長の出身地が
伊豆の熱海であったことから、磐梯熱海になったのだという。
そのときに温泉神の分霊を勧請した湯泉神社が今も磐梯熱海の街なかにある。
なるほど、と思うのと同時に、そんな昔から熱海ってあったんですねぇ。
そんな磐梯熱海の駅から徒歩1分。
今はもう廃業してしまった湯本元湯旅館がある。
その「湯本元湯」の看板文字の「元」だけが残っている
哀愁漂う建物の脇の路地を入っていくと…
うひょ~!これはいきなり激渋でグッとくる!
路地の奥に、錆にまみれた「浴場入口」という看板があって、
路地裏を場末感たっぷりの世界観を醸し出している。
湯本元湯旅館の浴場である。
フツーに考えれば廃業した旅館の浴場であり、
しかもこんなに錆にまみれているのだからここもやっていないだろうと
思うわけであるけれども…
ところがどっこい、ちゃんと現役でやっているんですねぇ。
看板だけでなく、建物も渋い。
とくに路地の奥側から見ると、これまたグッとくるのだ。
はやる気持ちを抑えながらさっそく中へ入る。
番台のおじさんに入浴料金500円を払って(午後2時以降は安くなる)、
案内されたままにいくと、黄色い壁の空間に黄色い下駄箱がある。
靴を脱いで中へ入ると、これまた黄色いロッカーがある。
その黄色いロッカーがある脱衣所の隅っこには休憩用の黄色い椅子とテーブルがあった。
いずれもペンキで塗られた手づくり感があるもので…
むむむ、これは…、ここの誰かが黄色が異常に好きなのかもしれない(笑)。
薄暗い浴室には大きな湯船がドーンとあって、その奥にまた浴槽がある。
実はこのふたつの浴槽が、この「湯本元湯」のポイントといえるかもしれない。
なにも知らない人は、フツーに大きな湯船から入ると思うけど…
すると、たぶん、ザブン!ひゃ〜!って感じになるだろう。
この大きな湯船には33℃の源泉がそのまま注がれて
湯はぬるいというよりは冷たいぐらいなのである。
夏であれば、こちらから入るものいいかもしれないけど、
通常は加温された湯が入っている奥の湯船から入って
身体が温まったら大きな湯船に移るのがいい。
で、熱い湯で身体を温めて、冷たい湯につかって…と
繰り返しているうちに、この冷たい湯がなんともいい感じになってくる。
温泉の効能をじわじわ感じながら、思わず長湯。
がらんと大きな浴室、贅沢に溢れていくオーバーフロー。
う〜ん、あの路地裏の錆だらけの看板の奥に
こういう素晴らしい湯空間がある。いいねぇ、実にいいではないか。
大満足で湯を上がる。
脱衣所の横に階段があったので、のぞいてみると…
おおお〜!なんて味のある空間なんだろう!
無造作に置かれてあるふたつの水色のポリバケツの
配置バランスが絶妙だ。そしてそこにかもしだされている空気感。
思わずシャッターを押さずにはいられなかった。カシャリ。
いろいろと、グッとくるなぁ。この「湯元元湯」は。
次に向かったのが「宝の湯」である。
途中、小さな資料館みたいなところがあったので
ちょっとのぞいていくと、磐梯熱海の伝統工芸品のこけしや
昔の町並みの写真なんかが展示されていた。
中に「なんじゃこりゃ?」みたいな写真もあって、
そっか〜、昔はそうだったのかと、それはそれで興味深かった。
「宝の湯」は磐梯熱海駅から越後街道を
15分ほど歩いたところにある無人の共同浴場である。
入浴料金は近くの「安田商店」か「乙女食堂」で払うシステムのようだ。
なのでまず「安田商店」を探していくと、
「安田商店」のおばちゃんが「今日は乙女食堂さんの当番なんですよ」とのことで
今度は「乙女食堂」を探す(どちらも「宝の湯」から3~4軒離れたところにある…)。
しかし、いい名前ですねぇ、乙女食堂…♡
ちなみに隣には「スナック乙女」というスナックがあったりする。
うん、こちらも惹かれますねぇ。
「乙女食堂」はまだ準備中のようであったが、戸を開けて声をかけると
おばちゃんが出てきてくれたので、入浴料300円を払うと、
「この桶がお金を払った証になりますから、
使い終わったらまたこちらに戻してくださいねぇ」と、
おもむろに桶を渡された。なかなかユニークなシステムだ。
「宝の湯」はとてもこじんまりとした湯だった。
お湯は透明で無味無臭、かなり熱い湯だったので
少しだけうめて入浴した。
元湯と比べるとこっちのほうが、きしきし感が強めな気もするけど
なんせあっちは33℃なので、比べられるものではない。
あくまでも感覚である。
「乙女食堂」に桶を返しにいきながら、
いかにもジモ泉的な飾りっけのない浴室空間や、
こじんまりとした居心地の良い湯船。
入浴料金と引き換えに桶が渡されるといいう地元特有のシステムなどなど、
こういうのも、ひな湯めぐりの楽しみなんだよなと、あらためて実感。
それにしても駅前の路地裏の奥にある「湯元元湯」の
熱い湯と冷たい湯を交互に入る湯はよかったなぁ。
路地裏というシチュエーション、錆びた看板、施設のひなび度、
番台のおじさんも気さくな人だったし、
黄色いロッカー、渋い階段の空間、その他もろもろ…
いろいろとよかった、よかった。
これからは、磐梯熱海と聞くと、
きっと真っ先に、あの錆まみれの看板が頭に浮かぶことだろう。
■湯元元湯
福島県郡山市熱海町熱海4-22
0249-84-2690
利用時間:5:30~18:00
入浴料金:午前5時30分よりは500円/午後2時よりは250円/午後4時よりは200円
■宝の湯
福島県郡山市熱海町熱海5-169
利用時間:16:00~21:00
入浴料金:300円
記事:ショチョー
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