えっちらと山路を登った先のごほうび湯/日光澤温泉

【栃木県 日光澤温泉】

日光澤温泉に行くには誰もがちょっとした山道を1時間半ほど歩いて登っていかなければならない。それというのもここは日光国立公園内にあって自然保護のために一般車の乗り入れを禁止しているからだ。で、この山道が「奥鬼怒歩道」なんていうゆるそうな名前がついていながら、けっこうキツい。いや、マジで。それもそのはず、日光澤温泉は標高約1400メートル地点にあるのだから。
だからここは温泉客というよりは登山客の利用のほうが多い。ここで一泊して温泉入って、翌朝、天空の湿原、奥鬼怒沼湿原や日本百名山の日光白根山を目指すというわけである。
また、日光澤温泉までの道のりの途中に八丁の湯、加仁湯があるので、山道登って汗かいて、八丁の湯で汗を流して、また山道で汗かいて、加仁湯で汗を流して、またまた山道登って汗かいて、最後に日光澤温泉で汗を流して、そのまま一泊して温泉三昧なんていうことだってできちゃうのだ。なかなか贅沢というか酔狂というか、いいと思いませんか? そういうのって。

さて、そんなこんなで山道をえっちらおっちら登って到着した日光澤温泉。実にいい佇まいの温泉宿なのだ。昔の田舎の小学校のようなレトロな趣き。ホント、そこらへんから風の又三郎でも登場してきそうな、そんないい味を出している。山道を苦労して登って、たどり着いたところにこんなステキな温泉宿があるっていうのも、なかなか感動的だったりするする。

そして、それだけではない。ここでは3匹のかわいい芝犬の親子が出迎えてくれるのだ。名前はチャング、わらび、サンボ。3匹とも、まさにニッポンの正しき芝犬って感じで、これがまたレトロな昔の小学校のような建物にイメージ的にびったりマッチしているんだなぁ。うん、トイプードルやチワワとかじゃあ、こうはいかないだろう。
で、とってもかわいい芝犬なんだけど、この子たちが、夜、吠えて、熊とかを追っ払ってくれるのだ。少なくともチワワにはできない芸当だ。

おもしろいのが玄関に吊り下げられてある鐘。誰も出てこないときはこの鐘を鳴らして来訪を告げるのである。なんかいいなぁ、こういうシステム。でも、ボクが行ったときはすぐに女将さんが出てきてくれたので、残念ながらこの鐘を鳴らすことはできなかった(笑)

日光澤温泉は位置づけ的には山小屋のようなものなので、部屋にテレビなんかは置いてない。携帯の電波も届かないので、宿泊するとホント、せわしない都会の時間の流れを忘れることができて心がリセットされる。山間のひなびた宿で過ごす、つつましやかな時間。なんていうか、ここに泊まると、色んな意味で普段忘れていたものを思い出させてくれる宿なのだ。

そんな日光澤温泉のお風呂はふたつの混浴露天風呂と男女別の内湯。日帰り入浴は露天風呂のみで、内湯は宿泊客だけが入れる。源泉は二種類。白濁湯と無色透明の湯のふたつの泉質が楽しめる。
というわけで、まずは露天風呂からいただこう。
露天風呂では登山仲間だというおじさんふたりとご一緒した。なんか見覚えあるなと思ったら、そういえば、ここにくるまでずっと前を歩いていた登山の人だ。で、このふたりが温泉に浸かっていると実に絵になったので、モデルになってもらって何枚か写真を撮らせてもらった。

白濁色の湯の露天風呂は、ちょっとぬるめで硫黄の香りもいい感じで長く浸かっているのにちょうどいい。湯船も広くて気持ちいい。もうひとつの露天風呂はもともとはことらも白濁色の湯だったそうだけど、地震が起きて泉質が変わってしまったとのこと。無色透明の湯でこちらのほうが浴感がさっぱりした感じ。どちらもこの山間の景色に囲まれているので開放感があって気持ちいい。

さてさて、お次は内風呂へいきましょうか。
浴室はいい感じにひなびていて、湯ぶねは石造り。そこに白濁した湯がかけ流されている。ま、当然といえば当然だけど露天よりも湯が熱め。こっちのほうが源泉のフレッシュ感があって浴感も濃厚な感じだ。じわじわと体に効いてくるいい湯。くぅ〜! たまりませんねぇ。

とってもいい湯をいただいて大満足して夕食へ。
これがまたおいしかった。無駄にボリューミーではなく、山の幸を中心とした素朴な料理。ご主人おすすめの日本酒も料理にあっていておいしかったなぁ。

お腹もいっぱいになったので、暗くなるまえにふたたび露天風呂へ。誰もいない、暮れなずむ露天風呂を独泉して幸福感を噛みしめる。で、内湯に移ってふたたび幸せな独泉タイムを満喫。そんなふうにして日光澤温泉の夜はふけていったのである。

翌朝、ご主人から日光澤温泉についてあれこれ話しをうかがった。
日光澤温泉が開かれたのは天保年間の頃。天保の大飢饉とか大塩平八郎の乱とかがあった、まぁ、いわゆる江戸時代の後期で、そのころの文献によれば「当時の小屋は二間に五間の板小屋で床は所々にに板を敷き、湯室は四十歩ほど下った渓流の岩間にあった」とのこと。つまりは簡素な小屋だったようですね。で、時代が下ってそんな日光澤温泉に最大の危機が訪れたのだという。明治35年、この地を大暴風雨が襲ったというんです。被害は甚大で、辺りはすっかり自然に帰してしまい、実質、日光澤温泉は消滅してしまった。
それから22年後の大正13年のこと、現在の日光澤温泉初代当主の根本辰之介が再興して、現在の日光澤温泉がある。再興するとひと口にいっても、こんな山の上まで建築資材を運ぶのはさぞかし大変だったはずだ。ただただ感謝の思いに頭が下がる。

山を下りながら思った、というか感じた。
たった一泊しただけなのに、えっちらえっちら山路を登ってきて、携帯も通じずテレビも置いてないこの宿で、ただただ温泉三昧しながら過ごしたことは、ものすごく心の洗濯になっている気がした。いや、ホント、心が清々しいのだ。普段、よっぽど毒されていたんだろうなぁと。

場所 栃木県日光市川俣874
料金 日帰り入浴500円〜 宿泊6300円(素泊まり)〜
電話 0288-96-0316

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2019-09-16 | Posted in 関東/中部No Comments » 

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