じんわりと在りし日の面影にじむ温泉街/大湯温泉・銀泉荘

main

【新潟 大湯温泉・銀泉荘】

 

新潟の大湯温泉といえば、江戸時代の銀山最盛期に栄えた温泉であり、

さらにいうならば、開湯は奈良時代という、

かなりというか、むちゃくちゃ伝統のある温泉地でもある。

大河ドラマ「天地人」で、兼続とお船が訪れた温泉としても知られている。

 

そんな大湯温泉に行ったのは雪が舞う12月の上旬だった。

 

冬に上越新幹線に乗るたびに思うことだけど、

川端康成の「雪国」の冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」

という描写は、ホント、たぐいまれな名文ですね。

なんてったって、まさにその通りなのだから。

東京では穏やかな小春日和でも、トンネルを抜けるといきなり雪が降っていて、

いつも軽い驚きと感動を禁じえない。

小説でも、薄幸のヒロイン駒子が暮らす雪国と、ニヒリストの島村が暮らす東京を、

この異次元をむすぶようなトンネルの存在によって、

あっちの世界の話と、こっちの世界の話みたいになっていて

物語に奥深さと、不思議な非現実感をあたえている。

たった一行の書き出しの言葉がこれほどまでに

見事に小説全体に機能している例はほかに知らない。

さすがノーベル文学賞作家というべきだろう。

 

yukiguni

shimizu

 

小出駅で降りてバスで大湯温泉に到着。

宿に向かうにはまだ早かったので、

まずはぶらぶらと大湯温泉の温泉街を歩いてみた。

 

奥只見湖のダム建設の頃、大湯温泉は越後一の温泉街として

栄えたのだという。

メイン通りに射的場やおみやげ屋さんが並び、

芸者置屋には最盛期は100人もの芸妓さんがいたという。

 

でも、その繁栄ぶりは今は見られない。

メイン通りには1軒のまんじゅう屋と居酒屋を残すだけで、

かつての射的屋やおみやげ屋さんがあったであろう場所は更地になっている。

メイン通りであることを告げる「すずらん通り」のアーチも

寂しげにポツンと立っていたりして、

ちょっと寂れた温泉街といった感じなのである。

 

m_IMG_0004

m_IMG_0043

 

しかしですよ。

 

なんかですねえ、いいんですよ。

この温泉街の節々からにじみでてくるものが。

 

ニッポンの正しき温泉街の猥雑な情緒といえばいいのだろうか。

坂道、路地、石段の小道、そんなものが旅館やホテルを縫うようにあって、

場末感たっぷりな飲み屋があって、川があって、味わい深い古い建物があって、

そんな、ちょっとした迷路のような温泉街。

 

m_IMG_0002

m_IMG_0038

m_IMG_0159

m_IMG_0028

m_IMG_0030

m_IMG_0036

 

たしかに、かつての繁栄ぶりは見られないけれど、

その繁栄のかすかな残り香のようなものが漂っているのだ。

で、そんな残り香の中にニッポンの正しき温泉街の情緒が感じられる。

 

じんわりと。

 

そう、このじんわり具合にグッときた。

なんとも味わい深い。

不思議な魅力をもっている温泉街なんですね、ここ、大湯温泉は。

いいなあ。歩いていて楽しい。

 

そんな中、とくにグッときたのが、この建物だ。

かなり古びているけれど、旅館なのかな?

旅館だったら、こんなところに泊まりたいなあ。

 

m_IMG_0037

m_IMG_0041 m_IMG_0040

 

カメラ片手に温泉街をぶらぶらして、

宿についたのは日が暮れたころだった。

銀泉荘。こじんまりとした民宿っぽい和風旅館である。

 

m_IMG_0047

m_IMG_0056

 

一泊二食付きで7,710円。良心的な値段。

宿全体に漂う昭和な感じもいい感じだ。

まずは疲れた身体を癒やすために、さっそく風呂へと向かう。

内風呂のみの風呂で貸しきりタイプである。

なぜか脱衣所に金魚の水槽がふたつあって、どちらの水槽の金魚も

丸々と肥えていて愛らしい。

洗面所と風呂場のどちらも、昭和な感じのタイルだったところに

ちょっと感動。ちょっとタイル萌え。

 

roka

furo

kin

m_IMG_0077

m_PC060062

 

ずっと雪が降る中、歩いていたからお湯が身体にとても心地よかった。

お湯は無色透明の単純泉。

お湯のなかでゆらゆらとゆれる自分の足や、古びた蛇口や、変色したタイルを

意味もなく眺めながら長湯した。

 

じわ~っとくる温泉の湯が、

さっきまで歩いていた、じんわり感じた町並みの情緒と

心のなかでシンクロして、それがまた、なんとも心地よかった。

 

m_PC050027

m_PC050035

m_PC050033

m_PC050030

 

さて、湯上がりのごはん。いちばん安いプランだから、それなりかな、

なんて思っていたけれど、いやはや、ここは魚沼、日本一の米の名産地である。

料理もおいしかったけれど、ごはんがともかくうまかった!ノックアウトでした。

 

m_IMG_0109

m_IMG_0113

m_IMG_0114

 

ごはんを食べて、ふたたびお風呂につかって、

館内をちょっとぶらぶら。

窓の外の居酒屋の灯りにちょっとグッとくる。

いい感じににじんでいた。

 

m_IMG_0118

m_IMG_0119

 

朝、起きて窓の外を見ると雪が絶えまなく舞っていた。

昭和な和風旅館の窓から眺める雪景色がきれいだったから、

それを眺めながら廊下を歩いていたら、突きあたりに変わった形の窓があった。

 

あれ?もしやこの窓は…

 

m_IMG_0128

m_IMG_0132

m_IMG_0133

m_IMG_0131

 

ぜったい、そうに違いない!確信した。

 

銀泉荘をチェックアウトして、

あのグッときた古びた旅館っぽい建物が建っていた

場所へ行ってみた。

 

あ、やっぱり!

 

見上げると、そこにあの変わった形の窓があった。

なんだ、自分が泊まっていたのは、あのグッときた建物だったんだ。

街路が入り組んでいたから位置関係がよくわからなかったけれど、

あの建物は銀泉荘だったのである。

う~ん、そうだったのか。

 

どうりで、どうりで。

銀泉荘、味わい深いものがあったもんなあ。

なんだかうれしいねえ、こういうのって。

 

m_IMG_0149

 

思いもよらなかった、この小さなサプライズに

ちょっとした感動を覚えながら

雪に覆われた温泉街を歩いてみた。

雪よけの屋根付き階段とかがあって目新しかった。

 

m_IMG_0188

m_IMG_0186

m_IMG_0187

m_IMG_0191

m_IMG_0194

 

ユピオという複合施設に

ここ大湯温泉を含む湯之谷温泉郷の写真が飾ってあった。

そこには確かに、かつての越後一栄えた温泉郷の姿が記録されていた。

 

m_IMG_0162

 

やっぱりこの温泉街はだてじゃない歴史がある。

なんてったって奈良時代から続いているのだ。

温泉街というのは過去につながっているほど味わい深い。

ここ大湯温泉も過去とつながっているからこそ、

味わい深さが、こんなふうにじんわりと感じられるのだろう。

いいお湯があって、じわりと味わい深い街路があって、

おいしいお酒と、いい宿と、とびきりおいしいごはんがある。

ほかになにが必要?

う〜ん、また、来たいなあ。

 

m_IMG_0198

m_IMG_0201

m_IMG_0209

m_IMG_0216

m_IMG_0220

m_IMG_0225

 

しかし、雪が舞う温泉街というものはなんともいいものだ。

でも、豪雪地帯の新潟ではこんな雪は序の口なんだろうな。

そんなことを思いながら、雪一色にそまった大湯温泉の景色を

橋の上からしばらく眺めた。

今度は、新緑の季節にでも来てみようかな。

 

m_IMG_0176

 

銀泉荘 http://www6.ocn.ne.jp/~ginsenso/

記事:ショチョー

※当サイトのすべての文、画像、データの無断転載を堅くお断りします。  

2015-03-10 | Posted in 関東/中部1 Comment » 

関連記事

コメント1件

 おはようございます。 | | 2016.01.12 12:33

[…] って魚沼へお越しいただきました。大湯温泉と栃尾又温泉が掲載されています^^ http://hina-ken.com/?p=1312 http://hina-ken.com/?p=1397 ゆっくり温泉に浸かったり、冬籠りをして静寂を楽しむのも […]

Comment





Comment