36℃の秘湯で極上羊水体験を/栃尾又温泉・自在館
【新潟 栃尾又温泉・自在館】
ひょんなことから魚沼観光協会合併10週年の祝賀会で、
自分の本業のブランディングをテーマに記念講演することになって、
新潟の魚沼市へ行ってきた。
で、観光協会さんが用意してくださった宿が、
なんと、あの栃尾又温泉の自在館だったのだ。
栃尾又温泉の自在館といえば、温泉好きの間でも有名な秘湯の宿。
ぬる湯のラジウム温泉だ。
うれしいな。それと…、
自分が「ひな研」のショチョーであることを考慮してくださっての、
観光協会さんの粋なはからいがうれしかった。ありがとうございます。
で、そんなこんなで講演を終えて、
懇親会、二次会、三次会と楽しい時間を過ごして、
自在館に着いたのは11時近くだった。
栃尾又温泉は、いわば湯之谷温泉郷の奥座敷である。
豪雪地帯の2月だから当然かもしれないけど、まあ~、積雪量はハンパなかった!
3m以上もある雪の壁が道の両脇にそびえていて、
(スキー場とかではなく、あくまでも居住地域である)
まるで雪の城壁の中を車で走っているような感じだった。
すごいなあ。
部屋に着いて、さっそく作務衣に着替えて風呂に向かった。
まずは温泉につかりたい。ぬる湯で名高い「したの湯」へと向かった。
さて、冒頭で自在館の風呂は温泉好きの間でも有名な、
ぬる湯のラジウム温泉と書いたけれど、正確にいうならば、
栃尾又温泉には自在館のほかに神風館、宝巌堂と宿が三軒あって、
この三軒が共同で使っているのが、
「したの湯」、そしてもうひとつの「うえの湯」と呼ばれる、
ぬる湯のラジウム温泉なのである。
で、なぜ共同なのかっていうと、ぬるいからである。
源泉を、それぞれの宿まで引き込んでしまうと、さらにぬるくなって、
さすがに加温せずにはいれないくらいになってしまう。
そんなわけで、引き込まないっていうか、
引き込めないわけで、共同で使っている。
霊泉として名高い歴史ある源泉を、
そのままでつかってほしいという心意気を感じますね。
だから、風呂まではちょっとした道のりがあるのである。
でも、それがまたいい。
狭い階段で地下へとずんずん潜っていくような感じが
迷路っぽくていい。期待が高まる。
夜の「したの湯」は、なんとも神秘的な空間だった。
もわ~っと湯気が充満している浴室を、天井からのスポットライトが
湯船の中央にある湯口を照らしていて薄暗い浴室のなかで、
そこだけ白くぼうっ~と浮き上がっているようだった。
ふたりほど先客がいて、
スポットライトの光の外に青白い影のようになって、静かに湯につかっていた。
なんていうんだろう?湯につかっているというよりは、
瞑想でもしているみたいな感じがあって、なんとも独特なのだ。
そんな空気に感化されてしまい、
自分も必要以上にそぅ~っと音を立てないように湯につかってみた(笑)
むむむむ!ぬるい!
まあ、なんせ36℃の湯なのだ。
そして、それがこの温泉の個性だ。
わかっているけれど、外は寒かったからね。
だけれども、郷に入っては郷に従えというではないか。
ということで、しばらくじっと湯につかっていた。
栃尾又温泉の開湯は8世紀前半だという。
奈良時代の高僧、行基によって発見されたとされている。
実に実に長い歴史を持つ温泉なのだ。
さらにいえば、栃尾又温泉は日本屈指のラジウム泉でもある。
ラジウム泉とはいわゆる放射能泉で、ラジウムから発生するラドンという気体があって、
そのラドンから放射能が出る。で、それが治癒効果があるという。
放射能っていうとちょっとギョッ!としちゃうけれど、
含まれているのは、身体に害をおよばさない、ごくわずかな量。
それが身体の細胞を刺激して血流の促進、免疫力の向上に
つながるというわけで、栃尾又温泉は里から離れた山間部にあるにも関わらず、
「あそこの湯につかると身体がよくなる」という評判が評判を呼び、
やがて湯小屋ができた。それが自在館のルーツなのだそうだ。
慶長年間のころ(1596~1615年)の話です。
つまり自在館は、実に400年以上もの歴史を持つ宿というわけなのですねぇ。
湯小屋ができる前は漁師や木こりといった、山の人たちが
この湯にこうしてつかって長湯していたのだろう。
室町時代とか、鎌倉時代とか、平安時代とか…
そんなことを想像すると、なんとも感慨深い。
栃尾又温泉の長い歴史に思いを馳せながら、
かれこれ40分ほど湯につかっていた。
二人の先客はとうにあがっていて、
この神秘的な湯空間を独占状態。なんという贅沢!
う~ん、これはずっとつかっていられるなぁ。
なんていうか、不思議な心地よさが感じられる。
まるで羊水にでもつかっているような安堵感、脱力感。
長くつかっているうちに、
まるでこの羊水のような湯と一体化したかのような、
身体が、なんともいえないような開放的な感じになってくる。
なるほど、これが不感温度の快感。
やばいですね、この湯は。
栃尾又温泉がクセになるっていうのもよくわかる気がした。
しかも、ラジウム泉なので、湯につかった皮膚からだけでなく、
この充満している湯気からもラドンのありがたい成分を、
呼吸を通して吸収できる。
そんな湯に、ぬる湯のためのぼせないので、いくらでもはいっていられるのだ。
ちなみに自在館では、バランスを工夫した湯治料理「一汁三菜+1」をセットにした
「現在湯治プラン」というユニークなプランを用意している。
翌朝は「うえの湯」につかった。
「したの湯」と「うえの湯」は男女入れ替え制になっていて、
男は夜は「したの湯」、朝は「うえの湯」となっている。
「うえの湯」は「したの湯」のような神秘的な感じではなく、
ちょっと昔の健康ランドとかの浴場に近い雰囲気である。
そして広い。泳ぎたくなるような広い湯船だ。
しかし、もちろん、ぬる湯である。
窓からの雪景色を眺めながら30分ほどつかった。
「うえの湯」のいいところは、そのお湯もさることながら、
自在館の部屋から「うえの湯」に至るシチュエーションだ。
自在館には大正棟という昔ながらの湯治棟があって、「うえの湯」に行くには
そこを通っていく。で、その大正棟がなんとも激渋でたまらんのである。
タイムスリップしたかのような時間が止まったまんまの空間。
今じゃありえないような急な階段とかもあって、味わい深いのである。
とくにグッと来るのが廊下の床だ。
長い年月の中で磨きこまれて、見事なツヤをはなっているその廊下には、
おそらく何十年もの“時間”が染み込んでいるのだろう。
で、また、この古びた廊下の木枠の窓から見る雪がいい感じなんですね。
アルミサッシの窓じゃあ、この味わいは出ないだろうなあ。
自在館の館内にはところどころに、
特徴のある手書き文字の案内がある。
また、部屋にも同じ文字で書かれた冊子があったりする。
この手書き文字の主は、自在館のご主人なのだそうですね。
この文字に、おもてなしというか、まごころを感じます。
そもそも、この味わいのある文字だって、
たぶん、いろいろと試行錯誤をへて、この味わいにたどりついたのではないだろうか。
自在館のご主人は、昨夜の祝賀会の二次会でご一緒し、
宿まで送っていただいたのだが、
どちらかというと男らしく武骨でワイルドな印象の方だった。
あのご主人が、こんなにていねいな手書きで、
案内板から冊子まで、こんなに細やかなご配慮をされているなんて…
ちょっとギャップ萌えしちゃいますね(^^)
朝食を食べてから、貸し切りの露天風呂「うけづの湯」に入った。
こちらの加温してある熱い湯である。
ちなみに「うけづ」は、目の前の山の名前だそうだ。
あ~、熱い湯もいいですね。
畳二畳ほどの広さの湯船だけど貸し切りなのでちょうどいい。
湯船の外につもっている雪で、
誰かが小さなかわいい雪だるまをつくって置いてあった。
ひとりぼっちでさみしそうなので、友だちをつくってあげた。
いびつでごめんなさい。
チェックアウトの前に、味わい深い大正棟の写真を撮っていたら、
3m近くはつもっているであろう雪の壁に、
なにか踏み固められた雪の階段のようなものがあった。
そういえば今朝、大正棟の廊下から、スコップを持ってなにか作業を
していた人がいたけど…、そうか、この通路の雪かきをしていたんだ。
しかし、この通路、どこに続いているんだろう?
気になる。気になる。これは行ってみるしかない。
気になる雪の通路に分け入ってみると、
その先には、雪に埋もれたような木造の建築物があった。
どうやら、お堂のようである。
しかし、このお堂、普通とはちょっと違っていた。
なんと、無数のキューピー人形が奉納されている。
どうやら子宝祈願のお堂のようなんですね。
古びたお堂に無数のかわいいキューピー人形がぶらさがっているというのは
かなりの絵的なインパクトがあるけれど、
そのインパクトが、そのまま祈りの力のように感じてしまい、なんか感動してしまった。
古来から万病に効くされる霊験あらたかな湯があり、
その近くにこんな、祈りがぎっしりつまったようなお堂があるのだ。
このお堂がいつからできたものかわからないけれど、
そばに立っている御神木の「子持杉」や「夫婦けやき」の見事な大木を見れば、
やはり相当古くから信仰を集めた場所であろうことがうかがえる。
そんな古い時代から、今まで信仰がリアルにいきているということに
なにか名状しがたいものを感じてしまうのだ。
チェックアウトを済ました後、
ロビーにある囲炉裏のある小上がりがで、
囲炉裏の火にあたりながら、手づりのどくだみ茶をいただいた。
やさしい野の味わいだ。囲炉裏も身体をじんわり暖めてくれる。
自在館への到着が夜遅かったので、なんだかあっという間の滞在だったけれど
なんとも濃い時間が過ごせた気がする。
次は湯治棟に泊まって、「したの湯」に1時間とか2時間とかつかってみたいなあ。
あのぬる湯ならば、夏とかもいいんじゃないだろうか。
記事:ショチョー
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