おたっしゃ〜ん、いい湯ありがとう!/小浜温泉・脇浜温泉浴場
【長崎 小浜温泉/脇浜温泉浴場(おたっしゃん湯)】
地元の人に愛されている温泉が好きなのである。
なぜかというと、地元の人がのんびりと気持ちよさそうに
湯につかっていたりするから。
ときにはそんな地元の人と一緒に湯につかりながら、
ふとしたきっかけで、温泉談義に花が咲いたりする。
そんなとき、地元の人たちは、うれしそうに、愛おしそうに湯を語る。
それがとてもいい。
あるいはまた、会話が生まれなくとも、湯船の片隅で
地元の人たちの世間話を聞くともなしに聞きながら、つかっているのも、
それはそれで、とてもいい。
観光客相手の温泉では味わえないひとときなのだ。
で、例のごとくそんな湯を求めて長崎へいってきました。
島原半島が橘湾を抱くように湾曲した、
そのちょうどそのくぼみの真ん中あたりにある温泉郷である小浜温泉。
その外れにある脇浜温泉浴場。通称、おたっしゃん湯。
おたっしゃん湯へは諫早駅からバスに約1時間ほどゆられていく。
地方のバスターミナルって、いい味だしているところが
たまにあるけれど、この諫早駅のバスターミナルは
まさにそんないい味出したバスターミナルだったりしますねぇ。
こういうところにくると、なんとも旅情を感じてしまうんだなぁ。
小浜温泉街の中心地を抜けてバスを「公立小浜病院前」で降りると、
目の前は橘湾の海である。
おたっしゃん湯は海辺の道から一本奥へ入った道をいく。
途中、ぐっさんが小浜ちゃんぽんのキャラであるチャンポンマンに扮した等身大看板や、
日本秘湯を守る会の「旅館國崎」など気のなるものがあったりするけれど、
そこでは足を止めずにずんずんと進んでいく。
そうしてバス停から5~6分歩いたところに「脇浜共同浴場入口」と書かれた看板がある。
で、その看板が指しているちょっとした坂の登り口にまた「脇浜共同浴場」の
看板があって、その向こうになんとも味のある木造の建物がある。
おおお~と、思わずテンションが上ってくる建物だ。
期待に胸ふくらませて中へ入ると、
またまた、おおお~って感じの昭和な番台と脱衣所空間が目に飛び込んできた。
なによりもグッときたのがロッカーだった。
ええ?これ現役ですか?っと、思わず口をついて出てしまうかのような、
激渋レトロな木製ロッカーがどん!と鎮座されているのである。
ロッカーの番号が漢字の数字で書かれているところが素晴らし過ぎる。
昭和12年の創業当時から使われていたものだそうで、まだ現役なのである。
いやはや、すごいや、おたっしゃん湯!
脱衣所のガラスの引き戸越しに
湯気でもうもうの浴室が見えて、湯船の美しいグリーンの湯が見える。
ますます胸が高まっていくなぁ。
浴室の真ん中にど~んとある湯船はふたつに仕切られていて、
それぞれ5~6人入れるくらいの大きさである。
美しいグリーンの湯と見えたのは
実は底のタイルの色だった。湯はわずかに白濁したかのような透明の湯。
ちょっと熱め。湯気がもうもうなのも、この熱さゆえなのだろう。
湯につかると自然と「あ~っ」と声が出た。いい湯だなぁ。
おたっしゃん湯の源泉はとても熱く、
(鉄パイプから注がれている源泉に手で触れたら…や、やけどするかと思った!)
湯船には源泉のパイプに並走するように伸びている
水道の水で加水されている。
加水っていうと、なんだか温泉の評価を下げちゃう感じもありますが、
いえいえ、おたっしゃん湯の湯はいいですよ。
浴感はもちろん、海に近いからだろう、塩分をふくんでいて体があたたまる。
それに増して、この空間。天井が高く、レトロでジモ泉的な風情があって、
湯につかっていることがうれしくなる空間なのである。
いやあ、とても気持ちいい。温泉は湯だけではない。
空間の風情もまた温泉の成分のようなもので、
このおたっしゃん湯はそういった意味でも素晴らしいのですね。
う~ん、いいね、いいね、気に入ったぞ!
ああ、いい温泉だった。
長崎にもいいひなび湯があるじゃないかと思いながら、
さてさて、湯上がりのビールをどこでいただこうかと
駅から来た道を戻った。
ただ、温泉街の外れなので意外と店がない。
ぐっさんのチャンポンマンの等身大パネルが立っている店も、店自体は定休日だった。
目立つゆえにちょっとイラッとする(笑)
バス停近くまで来たところで
昭和な感じの喫茶店があったので足を止めて見ると、
ピザや昼定食の貼り紙があった。
ここにしよう。喫茶店のピラフで飲むビールっていいんだよね、と。
店に入って、さっそく「ピラフとビールください」というと、
「あ、うち、アルコール置いてないんですよと」とご主人。
ガーン!
聞けば近くに大きな公立病院がある都合で、
入院患者が病院を抜け出してアルコールを飲みにこないように
店には置いてないとのこと。
「もしあれでしたら、この先にコンビニがあるので、そこで買っていただいて
持ち込みでもいいですよ」とご主人。
もちろん、そのお言葉に甘えさせていただいた。
おまけに「ビールのおつまにどうぞ」と、厚揚げの煮物をつけてくれた。
う~ん、いいお店だ。ご主人、ありがとうございます。
まさかの持ち込みビールでの湯上がりの一杯になったけど、
いや、こういうのがまた旅の楽しいひとこま。
おたっしゃん湯は今も昔も地元の人たちの大切な湯。
さて、なぜ、この脇浜温泉浴場がおたっしゃん湯と呼ばれているのかというと
創業者の奥さんの姉妹に「たつ」さんという女性がいたとのことで、
その名前から「おたっしゃん湯」と呼ばれるようになったといいます。
たぶん、番台とかを手伝っていたりしていて、
看板娘みたいな存在だったのでしょうね。人気者だったそうです。
そういう話を聞くとますます、おたっしゃん湯が気に入ってきた。
いや、よくいいますよね。
名前ではなく、あだ名で呼ばれる人って、人気者だってね。
温泉もおんなじですねぇ。
ここでは誰も「脇浜温泉浴場」なんていわない。
おたっしゃん湯なのである。
どんな人だったのだろう?おたっしゃんって。
まぁ、なにはともあれ、
おたっしゃ~ん、いい湯をありがと~う!と、
心のなかでお礼をして小浜温泉を後にした。
■脇浜温泉浴場(おたっしゃん湯)
住 所:長崎県雲仙市小浜町南本町7
電 話:095-774-3402
入浴料金:150円(年中無休、日の出~21:00)
記事:ショチョー
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