浴室に神社がドン!/西山温泉老沢温泉旅館

【福島県 西山温泉 老沢温泉旅館】
奥会津の西山温泉。5軒の温泉宿と1軒の日帰り温泉がある、山間のこの温泉街のユニークなところは8本の異なる源泉があって、宿ごとに違う湯を楽しめるところだろう。これらはかつて神の湯と呼ばれていて8種類すべての源泉に順番に浸かれば万病に効くなんてことがいわれていた。
ま、そんな西山温泉なんだけど、ひな研的に推したいのはやっぱり老沢温泉旅館。西山温泉といえばひなびた温泉のレジェンドつげ義春のゆかりの温泉だ。でも、そのときにつげさんが泊まった中の湯はリニューアルして当時とは様変わりしている。老沢温泉旅館もちょこちょこリニューアルしているものの外観は当時の面影をそこはかとなく残していて、それはそれで、つげさんがペン画で描いた中の湯のような原型をかろうじて保っている。老沢温泉旅館はまさにグッド・オールド・西山温泉を象徴する温泉旅館なのだとまずはいいたい。

さて、そんな老沢温泉旅館。玄関を開けるといきなり生活感たっぷりな空間が目の前に飛び込んでくる。西山温泉の他の宿もきっと昔はこうだったんだろうな。こういうところが、ひなびた温泉ならではのほっこりポイントだったりするんだよね。
手前に廊下があって浴室に方へと細長く続いている。その向こうに階段の降り口がちらりと見えている。

ボクの温泉の“萌えポイント”のひとつに「階段を降りていく温泉」というのがある。階段を降りていく温泉は往々にしていい温泉だったりする。温泉って地表に湧くものだから、それを無理やり建物の立地の都合でポンプで汲み上げしまうのではなく、温泉が湧いているところまでこっちが降りていく。だから源泉が新鮮で浴感も素晴らしいところである場合が多い。それに長い木の階段を降りていくとその先に温泉があるっていうのもわくわくして単純にいいですもんね。

階段を降りた先に更衣室がある。老沢温泉旅館は混浴なので脱衣所も浴室もひとつあるだけ(ただ、女性客が入浴していると他の男性客を待たせるようにしてくれるので、安心して女性客も入浴できる)。で、浴室のガラス戸を開けると…

ジャンジャカジャーン! と、ここ老沢温泉旅館ならではのインパクト抜群な浴室空間が目に飛び込んでくるのだ。石造りの3つの湯船が並んでいて、その奥に神社がある。浴室に神仏が祀られている温泉は珍しくはないけれども、ここは神社が浴室内にある。いや、なかなかないですよ、こういう温泉は。なんてったって神社ですからねぇ、神聖なオーラを放っているわけで、それがこの浴室に独特な雰囲気を与えているのだ。

実はこの日、ボクはマスコミ限定のプレスツアーに参加して西山温泉を訪れていた。ということで、ご一緒した伝説の温泉チャンピオン郡司勇さんをパシャリ。しかし、参加したメンバーみんなでこの老沢温泉旅館の湯の歴史とか湯の特徴とかを聞いてメモとか取っていた間に、郡司さん、いつのまにか服を脱いで湯に浸かっていたから、スゴイなぁと。いやはや、さすがは伝説の温泉チャンピオンだなぁと(笑)

さて、老沢温泉旅館の湯。おもしろいのは、ここの源泉は浴室の奥から樋状になった溝を通って3つの湯船に分配されている。なので当然、手前がいちばん熱く、だんだんとぬるくなっているんだけど、湯の質も微妙に違っているのである。湯の温度によってなのかはわからないけれど、湯の透明度や湯の華の量なんかが違っていて、それぞれ3つの湯の個性が楽しめるというわけなのである。また、時間や天気によっても湯の色が変わったりするとのことで、なかなか不思議な温泉なのだ。

浴感はいい感じのツルスベ感があって、味見をしてみるといい感じに塩味が効いた卵スープのような感じ。濃厚な湯。黒い湯の華と白い湯の華が混在しているのも面白い。いやぁ、これは体に効く温泉だ。そしてやっぱりこの独特な空間の雰囲気が、なんだか湯にも神秘性を与えていて、なんともありがたい湯に思えてくる。神の湯っていうのはこういうことなんだなぁ。

神秘的な湯をたっぷり楽しんだあと、脱衣所に昔の写真とかいろいろ飾っているのを眺めていたら、「湯かげんと東おろしの名刀は病の根まで切れる味は正宗」と書かれた味わい深い絵が飾られてあった。なるほど、名刀と名湯をかけてあるわけで、名刀正宗級の湯だっていうことか。うん、これは納得。

神秘的な湯の余韻に浸りながら部屋で湯上がりのビールを飲みながら思った。よく効く温泉の湯が誰しも普通に霊験あらたかな湯として受け止められていた時代。それもそれほど昔のことではなくて、高度成長期以前あたりの普通の感覚だったのだろう。そういう感覚があったからこそ、ああいう不思議な浴室空間ができて今に残っている。まさに温泉文化。老沢温泉旅館はちょこちょこリニューアルしているけれど、そういう温泉文化的なところを大切にしている。うん、やっぱりグッド・オールド・西山温泉を象徴する温泉旅館なんだなぁと。

■西山温泉 老沢温泉旅館
住所:福島県河沼郡柳津町五畳敷老沢114
電話:0241-43-2014
入浴:400円(9:00~17:00)

記事:ショチョー
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2019-05-08 | Posted in 北海道/東北No Comments » 

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