お茶の里の癒し力抜群の湯/平山温泉 龍泉荘

【静岡県 平山温泉 龍泉荘】
はじめて、ここ龍泉荘に来たときのことを忘れられない。
温泉が目的で来たのではなく、ライターとしてお茶の取材をしていたときに、教えてもらったのが龍泉荘だった。
午後2時ぐらいだったけど、畳敷きの休憩所で、たぶんお茶農家の人たちなのだろう、ひと仕事終えて、湯に浸かって、湯上がりの飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。ホント、心から楽しそうに、おじいちゃんたちはサブちゃんを熱唱し、おばあちゃんたちは持ち寄った手作りのお総菜を分け合って舌鼓を打っていた。

いや、なんていえばいいのだろう。
こんな温泉なんか決してありそうもない山間のお茶の里にぽつんとひなびた温泉施設があって、そこで昼間っから農家のおじいちゃん、おばあちゃんたちが楽しそうな宴を開いている。思いもよらない光景を前にして、なんていうか、ここがまるで桃源郷のような場所に感じられたのですね。ほら、よく小津安二郎の映画で、お座敷でつつましげにお酌しあいながら飲んでいるシーンとかあるじゃないですか。小津監督の独特な低いカメラアングル効果が効いているんだろうけれど、あれ見ていると、ああ、なんかいいなぁ、自分も映画の中に入っていって一緒にたわいもない話をしながら飲みたいなぁ、みたいな感じになるでしょ? なんかそれとおんなじで、自分もおじいちゃんになってこのどんちゃん騒ぎに加わりたいなぁ、と。そんな気持ちになったんですね。それほど、なんだか楽しそうで、幸せを感じる光景だった。

だから、龍泉荘って聞くと必ずこの時の光景が瞼の裏に鮮やかに蘇ってくる。そして同時に龍泉荘の湯の、あのほんのり甘味を帯びたような硫黄の香りも、芳しく蘇る。

さて、そんな龍泉荘がある静岡県の平山温泉の湯は長い歴史を持っていて、通称「御殿乳母の湯(ごてんうばのゆ)」とも呼ばれている。
戦国時代、ここは今川氏ゆかりの秘湯だったのだ。なんでも今川家に仕えていた乳母が湯治に通っていたことからそのように呼ばれるようになったのだとか。

龍泉荘も今は日帰り入浴のみだけど、かつては湯治宿として湯治客を受け入れていた。玄関前に小さな橋「然界橋(ぜんかいはし)」が架かった小粋な演出はそんな宿だったころの名残りである。その玄関を開けると迎えてくれるのが大きなクマの置物。ボクはこれ、ずっとタヌキだと思いこんでいたんだけど、どうやらクマなのらしい。そういわれれば確かにクマだ。もうクマにしか見えない。

館内は山間の湯治宿の面影がそこはかとなく残ったいい感じ雰囲気。いやぁ、いいなぁ、ここ、泊まってみたかったなぁ。
浴室は受付のちょっと奥へ行ったところにある。中に入ると飾りっ気のない簡素な脱衣所があって、そこからガラス越しに浴室内が見える。真ん中に岩があって3つに仕切られたちょっと変わった湯船。そうそう、この湯船だ。タイルがちょっとかわいいレトロな湯船。
3つに仕切られた湯船にはかけ流しされた源泉がオーバーフローして行き渡るようになっているので、湯温も自然にちょっとずつ下がっていくので、3つの温度の湯が楽しめるというわけだ。

そして、湯。これがまたいい。ここの源泉は冷鉱泉なので加温の源泉かけ流し。でもちょっと甘みを感じるような硫黄の香りが芳しくて、浴感もやわらかくてとってもフレッシュ。ちょっと浅めの湯船と適度な湯温が長湯にちょうどいい。硫黄の香りがする湯は珍しくはないけれど、ここの硫黄の香りは他とはちょっと違うのか、な〜んかいいんですよ。飲泉コップがあるので飲んでみるとうまい。これ、胃腸にいいやつだとすぐにわかる。

湯上がりにご主人と立ち話。なんでもご主人は目を患っていたそうで、お医者さんにもこのままじゃ危ないっていわれていたとかで、でも、ここの源泉で毎日目を洗っていたら治ったっていうんですね。「それだけ殺菌力に優れてんだよ、ここの湯は」とご主人。う〜ん、まさに龍泉荘という霊験あらたかな感じの名前にふさわしい湯なんだなぁ。

龍泉荘を出る前にちょっとだけ休憩所を覗いてみた。
今日は湯上がりの人が二人ほど寝転んでいるだけだったけれど、この部屋の中に立つと、やっぱり蘇ってくるんだなぁ。あの楽しそうなどんちゃん騒ぎがね。
最寄りの駅である草薙駅までは8キロの距離。行きはタクシーで来たけれど、なんか龍泉荘の湯の余韻に浸りながら歩きたい気分だったので帰りは歩いた。山間なので帰路はほとんど下り坂だ。その坂を下っていると、なんだかその坂道が、桃源郷から俗世間へと下っていく特別な坂道のように感じたものだった。

場所 静岡県静岡市葵区平山136-2
料金 1時間500円〜
時間 9:00〜16:30(定休日/毎月28・29日)
電話 054-266-2461

記事:ショチョー
※当サイトのすべての文、画像、データの無断転載を堅くお断りします。

2019-04-29 | Posted in 関東/中部No Comments » 

関連記事