ここは館山の秘湯なのである!/正木温泉
【千葉 正木温泉】※閉業いたしました
栃木県の那須湯本の老松温泉といえば、知る人ぞ知る廃墟温泉として有名なわけで、
ひな研でもまさにツボにハマった温泉。
だから「驚き桃の木!廃墟の極上湯」として紹介しているわけだけど、
ある日、ひな研読者さまから「老松温泉」に負けないインパクトがある温泉として
教えてもらった温泉がある。正木温泉。
さっそくその温泉名をググってみると…なるほど!これはそそるなぁ。
所在地は千葉県館山市、あら、近くもないけど、それほど遠くもない。
思い立ったら、気軽にいけてしまう距離だ。
そうなるともう、行かない理由はない。そんなわけで、さっそく行ってまいりました。
JR館山駅からバスに乗って正木上で下車して、
そこから20分ほど歩くと正木温泉はあるということなので、てくてく歩く。
でも…
まったく温泉へ向かっているって気がしない…(笑)
歩いても歩いても田んぼがあるだけなんだけどナ…
そのまましばらくいくと神河鉱泉の看板があった。
神河鉱泉は正木温泉の先にある鉱泉なので、道は間違ってはいないようだ。
ちょっと安心してしばらくいくと、
道の左手に石段があった。
なんだ?このやけに気持ちをそそる石段は?
登らずにいられなくて、登ってみた。
この上にはたぶん朽ち果てかけたような渋い鳥居が立っていて、
その奥には渋い神社とかがある。そうに違いない。
と、期待に胸をふくらませて登ったら、そこは墓場だった…
ま、そんなもんだ(笑)
気を取り直して、
道端の枯れかけた大きな紫陽花に目を奪われながらも
歩いていくと、いきなり正木温泉の看板が現れた。
看板の向こうに建物があるので近づいてみたが
どうも温泉施設っぽくない。
さらに奥に農家のような家がある。これかな?
でもどう見てもただの農家なんだよね。
しかし、よく見ると説明書きっぽい看板みたいなのがあるなぁ。
そして、引き戸が開いていて、さらに引き戸が見える。
そこからテレビの音が大音量で漏れ聞こえていた。
すみませ~ん!と声をかけると…
猫が出てきた!
このテレビの音量じゃ声かけても聞こえないな、と。
なので、奥の引き戸をちょっと開けて声をかけると
おじいちゃんがテレビを見ていて、ふいをつかれたように振り向いた。
「すみません、日帰り入浴やってますか?」と自分。
「ん?お風呂か?お風呂か?」と確かめるようにおじいちゃん。
どうやら耳が遠いらしい。なるほど、テレビの大音量の合点がいった。
入浴料650円を払って案内してもらった建物の中は
手づくり感このうえないカオスな空間!
ぬぬぬ、ぬわぁんだ…?ここは?でも、気に入った!
浴室がまた、独特だった。
湯船は浮き蓋がかぶさっているので、自分で外す。
するとなみなみとはられた黒湯が現れた。
う~む、ある意味感動的だ!
市松模様のタイルに丸い飾り窓(ガラスではなくアクリル板ですが…)。
な、なんだろう?この昔の遊郭みたいなノリは…?
さっきのおじいちゃんの趣味かな?
なるほど!「老松温泉に負けないインパクト」が、ここには確かにあるぞ!
あいかわらず聞こえているテレビの大音量の中で、思わずうなずいた。
さっそくシャワーをあびて、湯船につかる。
2人でいっぱいぐらいの小さな湯船。
ここのお湯は、源泉から汲んできてわかしているのだという。
湯温は42度で、ちょうどいい感じだった。
ちょっと油っぽいヌルヌル感がある黒湯。
うん、なんだかありがたい感じの湯だ。
浴室には黒湯独特のモール臭がたちこめていた。
テレビの大音量がNHKののど自慢に変わった。
それを聴きながら湯につかっていると、ここが温泉施設ではなく、
普通の農家の風呂を借りているかのような、
なんだか、アットホームな気分につつまれた。
うん、わるくないなぁ、こういうの。
風呂からあがるとおじいちゃんが出てきて
「ほれ、これ、持っていって」と手づくりの温泉の成分資料と名刺をくれた。
「どっからきたんだね?」
「東京からはるばるやってきました」
「なんでここを知っていたの?」
「すごくおもしろい温泉があるって、聞いたんで」
おじいちゃんはまんざらでもなさそうににっこりと笑った。
「じゃあ、おじいちゃん、お元気でね!」
「あいよー!」
いや~、ホント、ユニークな温泉だったなぁ。
お湯も汲み沸かしとはいえ、浴感はよかったし。
感慨深かったので、なにげに一度振り向くと、
猫が見送るように出てきてくれていた。
帰りはバスに乗らず5キロほどの道をてくてく歩いた。
途中、那古観音堂という看板があったので、
それに導かれて参道の石段をあがってみた。
それほど期待せずに石段を上がったそこは、
観音堂、多宝塔、絶壁に建つ渋いお堂など、などなかなか見応えがあった。
とくに仁王門に立っていた金剛力士像の風格にはほれぼれとした。
境内からは館山の海も見渡せた。
うんうん、今日はなんだかいい一日になったなぁ。
そんな想いとともに正木温泉のあの黒湯を思い出すと、
なんだか正木温泉がかけがえのない秘湯のように思えてきた。
そう、正木温泉は館山の秘湯である。(ただし、マニア向けね w )
まだ日は高いけれど、館山駅あたりのどこかでビールでもひっかけてから帰ろう。
■正木温泉
千葉県館山市正木3027
0470-27-4614
入浴料金:650円
営業時間:朝9時かららしい。不在のときはお金を入れて勝手に入ってよいらしい。
記事:ショチョー
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