伊豆の踊子ゆかりのモダン湯/湯ヶ野温泉・福田家

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【静岡 湯ヶ野温泉・福田家】

ほの暗い湯殿の奥から、突然裸の女が走り出して来たかと思うと、

脱衣場のとっぱなに川岸へ飛びおりそうな格好で立ち、両手を一ぱいに伸ばして何か叫んでいる。

手拭もない真裸だ。それが踊子だった。

川端康成「伊豆の踊子」の中のワンシーンである。

踊り子に淡い想いを寄せかけていた主人公が、

恥じらいもなく裸で飛び出してきた踊り子の天真爛漫なさまに、

この子は、まだ子どもなんだと気づくという、小説の中でも印象的なシーンである。

で、その「伊豆の踊子」の舞台となった温泉宿「福田家」にいってきた。

「福田家」は明治12年創業の老舗の宿。

川端康成がまだ一高生(旧制一高)時代に伊豆に旅をしたとき、

「福田家」にも泊まった。その旅で旅芸人の一行と出会い、

そのときのことをモチーフにして書いたのが「伊豆の踊子」である。

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伊豆急行線の河津駅からバスに15分ほどゆられて湯ヶ野で下車、

そこから歩いて3分ほどのところに「福田家」はある。

湯坂という狭い石畳の坂を降りて行くと、道はふた手に分かれて、

路面に「伊豆の踊子文学碑」という矢印型の石版があるので、迷わずそっちへいく。

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すると、共同浴場があって、その先に川にかかった橋がある。

それを渡ったところが「福田屋」である。

なるほど、小説でも「小川のほとりにある共同湯の横の橋を渡った。

橋の向こうは温泉宿の庭だった。」と書かれていたっけな。

うん、まさにそのまんまだ。気分が上がるなあ。

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橋の向うに待ち構えるかのように

古風なひなびた木造二階建ての建物があるというのは、なんともいい感じだ。

建物は、創業当時から変わっていないそうである。

小説ではその建物の2階に主人公の「私」が泊まったという設定だ。

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福田家の入り口には日本秘湯を守る会の大きな提灯がさげられている。

中に入って、鹿の頭の剥製が飾ってあるロビーで入浴料700円を払う。

福田家では日帰り入浴は「伊豆の踊子」ゆかりの榧(かや)風呂と、露天風呂の

どちらかを選んで入るシステムになっている。

なので、もちろん迷うことなく「伊豆の踊子」ゆかりの榧風呂を選ぶ。

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入り口の白いのれんをくぐって、こじんまりした脱衣所へ。

浴室のドアが少し開いていて、そのすきまからいきなりレトロな浴槽が見えた。

おお!いい感じじゃないですか!階段を降りていくところがまた、いいねぇ~。

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さっそく階段を降りて浴室に立ってみると、

レトロな化粧タイルと石垣風に石が貼られた壁は、すり鉢状に広がっていて、

それが実にいい空間演出になっている。当時はすごくモダンだったのだろう。

独特な風情がある。来てよかったなぁ。

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しかし、ひのきの湯船はよくあるけれど、榧の湯船とは聞き慣れない。

榧を使ったものでよく知られているのが将棋盤や碁盤である。

木肌の美しさと耐久性にすぐれていて、香りもいい。

成長が遅く、今は市場にも出回ってなく、幻の木ともいわれている。

これを湯船に使うのはかなりのぜいたくといっていいだろう。

今は川端康成がつかっていた頃の湯船ではなく二代目の湯船であるが、

いい感じに木肌の色を深めはじめている。

浴室のレトロなタイルや石は創業当時のままなのだそうだ。

川端康成も「気持ちが落ち着く」といってよくこの榧風呂に入ったのだという。

わかるなぁ、うんうん、よくわかる。

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湯はちょっと熱めで、無色透明でさっぱりな浴感。

飲泉用のアルミのコップがあったので飲んでみると

かすかな塩気が感じられた。

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高い窓から見える緑がとっても心地いい。

浴室が半地下で、窓も天井も高いので、こじんまりとした浴室ながらも、

とっても開放感がある。いやぁ、いいなぁ、ここは。

みなさん、日帰り入浴できた場合は露天風呂ではなく、こっちの榧風呂入らなきゃ損ですよ。

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いや~、いい湯だった。いい空間だった。

大満足で湯から出て階段を上がって振り返ると、

窓から差し込む夏の日差しが湯船の片隅をスポットライトにように照らしていて

それが感動的に美しかった。

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福田家の榧風呂の余韻に浸りながら思った。

しかし、川端康成も最初の一人旅でよくぞこの場所に巡り会えたものだと。

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を

白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追ってきた…

そんな出だしではじまる「伊豆の踊子」は、

秋の南伊豆の風光の、ちょっとした描写が実に旅情を誘ってやまない。

修善寺から、おそらく当時は天城の峠道を越え、天城トンネルを抜けてていくと、

こじんまりとした湯ヶ野温泉が、あたかも隠れ里のように現れたのではないだろうか。

そのような印象的な温泉街で伊豆大島から流れてきた旅芸人たちと出会い、淡い物語が生まれた。

この風光明媚な場所が舞台になったからこそ、「伊豆の踊子」は、

映画でも古典というべき存在になったのだろう。

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帰りの踊り子号の中で、あ、伊豆の踊子文学碑を見忘れたじゃん!…と気がつく。

まぁ、そんなこともあるさ。あんな素晴らしい湯船につかれたんだから、よしとしよう。

…と、自分にいいきかせながら、わさびの里、河津町が新グルメと売り出している

あんバタわさこなるパンをほおばった。辛!ツーン!甘!

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福田家
静岡県賀茂郡河津町湯ヶ野236
0558-35-7201
1泊2食、13,000円~
日帰り入浴:700円(10:0017:00
http://fukudaya-izu.jp/

記事:ショチョー

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2016-08-17 | Posted in 関東/中部No Comments » 

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