いざ上諏訪の秘湯へ/大和温泉・衣温泉・菅野温泉
【長野 大和温泉・衣温泉・菅野温泉】
長野県の上諏訪といえば、全国的にも、すごい湯量を誇る温泉地だったりする。
有名な間欠泉や千人風呂の片倉館なんかがあるけれども、
全国で別府に継ぐ数の共同浴場がある温泉地であるということは、意外と知られていない。
それもそのはずで、上諏訪の共同浴場は、ほとんどが地元の人しか入れない
文字通りのジモ泉だったりするからだ。
そんな上諏訪のジモ泉のひとつが2年前、脚光を浴びた。
世紀のSF(S=すごい F=風呂)超大作第2弾として名高い「テルマエ・ロマエ2」の、
最初に笑かしてくれるシーンに登場したのが上諏訪のジモ泉、平湯だったのである。
阿部ちゃん演じるルシウスが、いきなりタイムスリップして現れた相撲取りたちの風呂場。
で、ルシウスがソッコーでつまみ出されるときにチラリと映る、
ちょっと洋風な若草色のレトロな建物、あれが上諏訪のジモ泉、平湯だった。
全国に星の数ほどある共同浴場の中から、よくもまあ、平湯を選んだものだと、
そのマニアックなセンスに脱帽せざるをえないって感じなわけだけど、
そう、今回はそんな上諏訪にいってきました。
上諏訪駅に到着したのはちょうどお昼の頃だった。
まずは腹ごしらえをと、食事ができる店を探したのだけれども、意外とない。
いかにも地元のラーメン屋って感じのお店があったので入ってみると…
ほぼ満席。ほぼみんな昼間から酒を飲んでいる。ほぼみんなできあがっていた。
うおお、外からはわからなかったけれどすごいなぁ。
ここらへんでは昼間から飲めるお店として、機能しているのかな?
きらいじゃないんだなぁ、こういうお店。
いい感じのほろ酔いで目的地へと向かった。
目指したのは大和温泉という湯。
ここは例の「テルマエ・ロマエ2」に登場したジモ泉、平湯の
裏手にある温泉で、なんともユニークで、それでもって名湯だったりするのだ。
上諏訪駅から10数分ほど歩いたあたりで、ふと見上げた信号に
「湯小路」と書かれた標識があった。
うん、そろそろだ。
ここ上諏訪の中でも良質の源泉が集まっているのが小和田地区である。
その地区のY字路に例の平湯が象徴的に建っている。
ところで、この平湯。
なんで平湯っていうのかご存じですか?
実はこの近くに上湯という、共同浴場があって、
そこも地元の人専用の湯なんだけれど、そこはかつて武士専用の湯だった。
で、その上湯と区別するために、庶民の湯は平湯と名付けられたのだと。
上湯、平湯とも今でもこうやって現役だけど、
まだ、そういう身分の違いの名残みたいなものはあるのだろうか?
かつてはどんな建物だったのかはわからないけれど、
現在の上湯は、入り口の扉が水色のペンキで塗られていて、
あまり立派な感じではない。
レトロちっくな平湯のほうが立派な感じだ。
なかはどんな感じなんだろう。一度でいいから入り比べしたいなぁ。
(どうか小和田地区の関係者のみなさまがた!もしこの記事をお読みになられたら、
こっそりとご許可いただけないでしょうか…(^^;))
さて、じゃあ、目的の大和湯へと向かおう。
ここ小和田地区の共同湯で数少ない地元以外の人も受け入れている湯。
その大和湯は、上湯の裏手にある。ある…、あるんだけれども、
そこが実にわかりにくいところにある。
大和温泉が“上諏訪の秘湯”と呼ばれている所以のひとつが、
そのわかりにくいロケーションだったりする。
それというのも、この小和田地区、温泉街というわけではなく、
見た目はまったく住宅街でしかない。
で、大和温泉は、そんな住宅地のなかにあって、
いちおう、看板が掲げられているけれども、
それがまた、看板らしからぬというか、住宅街に溶け込みすぎてわからない。
「大和温泉」という看板がある路地?裏庭への通路?…を、入っていく。
これがまた、フツーに家の庭へと入っていくような、そんな感じなのである。
このシチュエーションだけでも、グッとくるものがある。
こりゃ、たまらないっす。
で、たどり着いたのが、男湯、女湯にそれぞれ年季が入った
「ゆ」の文字が染め抜かれた渋い暖簾がかかった
手づくりチック&昭和チックな異空間なのである。
これまたグッとくるなぁ。さすがは“秘湯”というべきだろう。
お金はどこで払うのだろうと辺りを見回すと、
振り向いたところに料金箱があった。ワンちゃんのぬいぐるみが飾られている、
これまたチープでありながら愛を感じる異空間。
なんだろう?ここは。おもしろすぎる。
入浴料230円を払って、さっそく温泉へ。
のれんをくぐって引き戸を開けたところににノートが置いてあった。
ぱらぱらめくってみると、たくさんの人がいろんなところから
この温泉に来ていることがよくわかる。愛されているんですねぇ。
脱衣所はこじんまりとした感じ。
ん?天井近くになにかが鎮座しているぞ。
…と、目をやると、
なんと、マジンガーZさまが鎮座ましましていらっしゃいました。
大和温泉の湯船は2~3人でいっぱいになるようなのがひとつあるだけで
共同湯には珍しくステンレス製の湯船である。
で、肝心の湯は、というと…、硫黄が香るエメラルドグリーンの湯!
実はこれが、ここ、大和温泉の人気の秘密。上諏訪でもこういう湯は貴重なんです。
いや~、いい湯だなぁ~!
なるほど、
ここが“秘湯”といわれている意味が
身体でわかりましたね。
素晴らしい湯だなぁ、こりゃ。
そんな極上湯につかっていると、
最初はどうかなと思った、このステンレスの湯船も、
これもまた、ここのユニークな個性と思えてくる。
ユニークといえば、
女湯との仕切りの壁のガラスブロックには
魚のブロンズ細工みたいなのが嵌めこまれていて、
見たところそれらは川魚のようなのだけれども、
よく見ると、なんと、シーラカンスがいたりする。
さて、大和温泉の極上湯を堪能した後、次に向かったのが衣温泉である。
ここも、上諏訪のマニアックな湯として知る人ぞ知る湯だったりする。
大和温泉から、さらに10分ちょっと歩いたところに衣温泉はある。
こちらも大和温泉におとらず、好奇心をそそる湯小屋って感じなのだ。
料金は隣の民家が料金所になっていたが、
誰も居なかったので、ガラス戸を開けて入浴料金200円を置いておいた。
中へ入るといかにもジモ泉っぽいひなびた風情があっていい感じだ。
脱衣所になにやら貼り紙があったので、なんだろう?と読んでみると、
そこには「急ではありますが今年の12月27日(日)を持ちまして
衣温泉の営業を終了する運びとなりました。」と書いてあった。
ええっ?12月27日って…、なんと、なんと、今日ではないですか!
(※当ルポは12月27日に取材したものです)
いや~、次々となくなっていくのは、
ひなびた温泉の宿命ともいえるけれど…哀しいなぁ。
偶然ながらも自分も衣温泉の最後の日の入浴者になったわけだから、
心して湯につかることにしよう。
衣温泉の湯船はひとつ。
真ん中に仕切りがあって、4人入ればいっぱいな大きさだ。
湯船を見て、バスクリンみたいな湯の色?と
思ってしまいそうになったけれど、タイルが緑色で、
湯そのものは若干黄色みがかった色で、硫黄臭がする。
壁の蛇口から源泉が出るので、それをひねればかけ流しである。
う~ん、ここもいい湯だ。さすが上諏訪だなぁ。
湯をたっぷり堪能してあがったら、
地元のおじさんが浴室をデジカメで写真を撮っていた。
話を聞くと、やはり最後の日なので、わざわざ来たのだそうだ。
ここの湯が好きでねぇ。たぶん今日はこれから、
ここのファンだった人が次々とやってくるんじゃないかなぁ、と。
感慨深げに話してくれた。
3軒目は、電車に乗ってお隣の下諏訪へ。
向かった先は菅野(すげの)温泉である。
ここはレトロ銭湯的な雰囲気で、浴室の天井が高くて、
じつに気持ちのいい共同浴場だ。
しめくくりの湯として最適といえるだろう。
入り口は国道142号線に面した入り口と、
住宅地に面した入り口とがあるが、行くのならだんぜん後者をおすすめする。
これがまた看板に導かれて路地を入っていく感じが、いいのである。
建物のトンネルみたいな通路の真ん中に
「菅野温泉」という看板がかかっていて、引き戸の入口がある。
その正面には緑色のレトロなソファ。
これがまた、なかなかグッとくる佇まいなのだ。
中に入るとこれまたグッとくるレトロな番台がある。
だが、料金はそこで払うのではなく、自動販売機でチケットを買う。
レトロな番台の奥には、そう、当然、レトロな脱衣所がある。
籐の籠や年代物の体重計、温度計がいい感じ。
古きよき昭和の銭湯の脱衣所ですねえ。
菅野温泉の魅力はさっきも書いたように、
天井が高くてがらんと広い浴室だったりするのだけれども、
あんなふうな路地裏みたいなところから、トンネルみたいな通路を通って、
それでもって、グッとくるレトロな番台が現れて、その奥にこんなひろい浴場がある。
…と、いった一連の流れがいい。
で、もちろん湯もいい。無色透明で、熱めの湯が身体に一気にじわりとくる。
楕円形の大きな湯船で高い天井を見上げて放心状態になる、と、そんな感じなのだ。
あ~いい湯だった。
やはり諏訪はレベルが高いと再認識。
さて、東京へ帰ろう。というわけで下諏訪駅まで歩いたところで、
駅前に屹立している御柱に、ふと目を留める。
そう、下諏訪駅の広場には1998年の長野冬季オリンピックの開会式で
使われた御柱が立っている。
青空にスクッと立つその姿に威厳を感じずにはいられない。
諏訪といえば御柱祭や諏訪湖の御神渡りなど、
縄文の狩猟民の血を彷彿とさせるワイルドな祭りや神事が有名だ。
それらを守ってきたのは周囲を山に囲まれた
この諏訪という大地のロケーションだったといえる。
この威厳にみちた御柱を見上げながら、そんなことを思うと、
この諏訪という大地の地下になみなみとたたえられた源泉が、
いよいよ特別なものに思えてくるのである。
■大和温泉
長野県諏訪市小和田17−5
0266-52-3659
入浴料金:230円
営業時間:7:00~22:00
定休日:水曜日
■衣温泉(廃業)
長野県諏訪市小和田南
■菅野温泉
長野県諏訪郡下諏訪町3239-2
0266-27-6095
入浴料金:220円
営業時間:5:00~21:30
記事:ショチョー
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