日本一恥ずかしい露天風呂に浸かってきたばい!/満願寺温泉・川湯
【熊本 満願寺温泉・川湯・満願寺温泉館】
熊本の南小国町といえば味のある温泉郷がたくさんある。
なんてったって、いわずと知れた活火山、阿蘇山があるわけで、濃い~温泉に事欠かない。
大人の情緒あふれる黒川温泉や路地裏探検が楽しい杖立温泉をはじめ、
田の原温泉、城川温泉、扇温泉と盛りだくさんなのである。
で、なかでも満願寺温泉はマニアックな温泉として名高い。
温泉郷といっても、宿は3軒しかない。
コンビニなんかない…っていうか、そもそも店というものがほとんどない。
おみやげ屋さんさえもない。
でも、ここには「日本一恥ずかしい露天風呂」があるのである。
満願寺温泉の歴史はとても古い。さかのぼれば文永11年(1274年)にたどりつく。
時は鎌倉時代。北条時定が元寇の役の戦勝を祈願して満願寺を建立したという。
そうなると、そこに参拝客が訪れる。おのずと参拝客を泊める宿もできる。
温泉もそのころから湧き出ていたそうで、つまりはそれが今の満願寺温泉だ。
そんな満願寺温泉へは阿蘇駅からバスで行く。
阿蘇山行きのバスは外国人観光客で満載。いっぽう満願寺温泉方面のバスは
乗客が自分を含めて6人。満願寺温泉で降りたのは自分だけだった。
たぶんみんなは黒川温泉に行くのだろう。ま、平日だし、こんなもんかな。
さて、バス停で降りたものの、う~ん、なんていうか、
温泉郷の感じがまったくしない。ただの山の集落だ。
本当に温泉なんか、あるのかな?
しばらく歩くとようやく観光地っぽい案内板があった。
近づいてみると、年季が入っているっていうか…入りすぎていて、
まったく解読不能。ただ、横に新しい案内板があったから不便はなかったけれど、
読めなくなった案内板を残しておくことに、なにか意味があるのだろうか…
まあ、いっか。これはこれで味わい深い。
満願寺温泉は想像をはるかに超えた、こじんまりとした温泉郷だった。
川があって、満願寺があって、共同浴場があって、
例の「日本一恥ずかしい露天風呂」があって、宿がちょこっとある…
そんな満願寺温泉が一望のもとに、っていうか、
“一望のもと”というにはおこがましいぐらいの近距離内で見渡せてしまうのである。
う~ん、この、なんともひなびた山の集落に
こんな箱庭みたいにこじんまりとした温泉街がいきなり現れる。
なんか、うれしくなっちゃうなぁ。
さっそく向かったのは、いうまでもない。
「日本一恥ずかしい露天風呂」である。
「日本一恥ずかしい露天風呂」というのは正式名称ではない。
ここでは「川湯」と呼ばれている。
川辺の露天風呂っていうのは、全国にもいろいろあったりする。
でも、たいていの場合は、自然の河原に、河原と一体化したようにある
ワイルドであっけらかんとした露天風呂である。
ところが、満願寺温泉の川湯は
山の集落とはいえ、町の中の護岸された、けっこう狭い川の岸に
コンクリートの湯船がせり出ているという感じなのだ。
湯船というよりは、まるで川をせきとめているみたいで、
パッと見は温泉には見えない。
囲いもない。脱衣所もない。もちろん無人。
料金箱に200円入れれば、誰でも入浴できる。混浴である。
(といっても、女性はキビシイだろうなあ…)
というわけでさっそく200円入れて入ってみた。
しかし、スッポンポンになるのは、やっぱ抵抗ありますねぇ。
対岸の車道からホント、近い。
感覚的にいうなら、町の中でスッポンポンになるのと、ほとんど変わらない感じだ(笑)。
湯船につかると、これまた、なんともいえない感じだった。
湯船の湯はほぼ川と同じ水位なので、まるで川につかっているみたいな感覚なのである。
しかも、この川湯は足元から源泉が湧き出ているという、貴重な湯でもあった。
無色透明でぬるめの気持ちいい湯。ずっと入っていられる。
川面をよく見ると、小さな魚たちがたくさん泳いでいたりして、
それがなんとものどかなこの町の佇まいにあっていて、いい感じだった。
いやあ、実に心を豊かにしてくれる気持ちいい温泉だなあ。
川をせきとめたような、川と一体化したような満願寺温泉の川湯。
じつは、ユニークなのはそれだけではない。
川湯の湯船はふたつある。でも、もうひとつ隣に湯船っぽいものがあって、
それは温泉のお湯を利用した野菜や食器の洗い場だったりするのだ。
そう、ここ満願寺温泉では、温泉のお湯は、癒しの湯でありながら
生活のための“温水”でもあるのだ。
つまり、「日本一恥ずかしい露天風呂」とは、対岸から丸見えだけでなく、
こっちがスッポンポンだろうが、なんだろうが、
洗い桶に食器や野菜を入れた、おばちゃんたちが
すぐそこで、フツーに洗い物をしているというわけである。
なんとも独特な文化ではないか。
こういう温泉は未来に残していくべきだろう。
ひな研的には、この川湯は重要文化財級の温泉といっておきたい。
熊野の「つぼ湯」に匹敵する温泉といいいたいほどである。
「日本一恥ずかしい露天風呂」を満喫した後は
共同浴場「満願寺温泉館」に向かった。
こちらは地元の人たちにとって欠かせない湯となっている。
外観は共同浴場というよりは田舎の小さな集会場って感じだ。
無人の施設でありながら小さな休憩室みたいなのもあって、
古びていながらも、なかなか立派な無人施設といいたい。
料金はやはり料金箱にいれるシステムである。
こちらは混浴ではなく、男湯と女湯に分かれている。
湯船は、大きめのものと、小さなものがあって、
それぞれに「湯尻」「上がり湯」と書かれてあった。
「上がり湯」はわかるけれど…え?「湯尻」ってなんですか?
浴槽の壁に「入浴時の注意」が貼ってあったので読んでみると、
「身体をよく洗って湯尻から入浴してください」とあり、
「上がり湯は洗い場で洗った後上がる時だけ使用してください」とあった。
けっきょく「湯尻」の意味はわからなかったけれど
まあ、こっちから入って、上がる前だけに「上がり湯」につかるってことだな
ということがわかった。
そんなわけで「湯尻」のほうにつかると、
ことらは川湯よりちょっと熱め。
ここは夕方近くなると地元の人でいっぱいになるそうだけど、
昼過ぎということもあって独占できたこともあって、
それがまた気持ちよく、思わず濁点入りの「あ~」という声が出る。
無色透明のさっぱりとした湯であった。
レンガ造りの浴室も古びていていい味出している。
地元の人々に愛され、大切にされている温泉って、ホント、いいですね。
名湯とかとは無縁かもしれないけれど、そんなの知ったこっちゃないのだ。
ああ、いい湯だったな。
湯上がりに満願寺をはじめ、近くのお堂や、丘の上の古い神社を
お参りしたりしながら、町をぶらぶらと歩いた。
川沿いの家の駐車場に栗が天日干しされていたんで、
写真を撮っていたら、いつのまにかおばあちゃんが目の前に立っていて、
栗の説明をしてくれた。熊本弁のなまりがきつくて話の1/3ぐらいしか
わからなかったけれど、なんでも、この栗は「かちぐり」というそうで、
蒸した栗を天日で干した保存食なのだそうだ。
「食べてみろ」と差し出されたので食べてみると、
まあ、硬い。でも、噛んでいると、たしかに栗の味がする。おいしいものじゃない。
すると、それを見透かしたように、「うまいもんじゃないだろ?」とおばあちゃん。
「でも煮て戻すとちゃんとおいしいんよ」と。
「大東亜戦争の時はな、このかちぐりを兵隊さんのためにたくさんつくったもんよ」と。
おばあちゃんにとっては大東亜戦争も、そんな昔のことではないんだろうな。
そもそも戦後GHQが消そうとした「大東亜戦争」という言葉がフツーに出てくるところが
いいですね。川湯の素朴な文化といい、ここ満願寺温泉には違う時間が流れている。
なんだか、わけもなくうれしくなった。
おばあちゃん。またくるからね!
おたがい大きく手をふって別れた。
記事:ショチョー
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