ねじ式の原風景と千葉最古の温泉/太海・こはら荘、曽呂温泉

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【千葉 太海:太海湯本温泉こはら荘、曽呂温泉】※閉業しました

 

え~、「ねじ式」といえば、つげ義春の代表作であり、

間違いなく日本のマンガ史上に名を残す異色の傑作ですね。

そんな「ねじ式」の名場面といえば、

メメクラゲに腕を刺されて医者を探す主人公が乗った機関車が、

漁村の路地にゴッゴッゴッゴッと場違いに到着する、

あのシュールさ極まるシーンだろう。

 

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千葉県は内房線の、太海に小さな漁村があって、

そこに、あのシーンのモデルになった路地があるのだという。

 

というわけで、さっそく見にいきたいと思った。

なんせ、こちとら小学生の頃からの、つげマンガファンなのだ。

いかないわけにはいかないだろう。

ネットで調べてみると近くに温泉もいくつかある。

うんうん、いいねえ。おあつらえむきだねえ…

 

で、もしや?と思って、その路地の情報を調べてみたら

だいたいの場所は特定できたので、グーグルマップのストリートビューで

太海の漁村を“バーチャル散歩”してみたら、いきなりその路地に遭遇してしまった。

おお!っと、感動するとともに、

現地での楽しみを一瞬にして失ってしまったのではないかと、激しい後悔の気持ちも襲ってきたが、

ま、後悔してもはじまらない。気にせずにいこうではないか。

 

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JR内房線の太海駅は白いペンキで塗られた、ちょっとかわいい駅だった。

駅前にはタクシー会社あるだけで、タクシーは一台も止まっていない。

 

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駅前から通りに出てみると、海が見えていたわけではないけれど、

歩いていて感じる空気から、すぐ近くに海がある気配がした。

駅前の通りからはなれて適当に路地を歩いてみたら、

なるほど、ちょっと歩いただけで、すぐに海に出た。

 

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ここ太海の漁村は、仁右衛門島を観光のウリにしている。

仁右衛門島は、その昔、治承の乱で敗れた源頼朝が

落ち延びたという伝説を持つ周囲1キロほどの島だ。

島には頼朝が隠れたとされる洞窟があったりして、

この島の島主でだった平野仁右衛門が頼朝をかくまったとされている。

ただ、それを実証する資料に乏しく、あくまでも伝説の域を出ない。

外房には頼朝伝説があちこちにあって、この島もそのひとつなのである。

 

太海の漁村は、そんな仁右衛門島から、ほぼ見渡せてしまうような漁村。

小さな漁港があって、そのまわりにそのまわりにへばりつくように漁師の家が密集している。

漁港と仁右衛門島は距離にしてわずか50mほどしかない。

ひょいと泳いで渡れてしまう距離にある。

島へは漁港の桟橋から出ている渡し船でわたれるようになっていて、

料金は入島料込で1350円。なかなか強気な値段なのである。

対岸に向けて島にかかげられている「名勝仁右衛門島」という、

寂れた観光地的な看板が、哀愁を誘っている。

 

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今でこそ見かけないが、つげ義春が太海をモデルにして「ねじ式」を描いた当時は

藁葺き屋根の家がまだ数軒あったそうで、例の機関車がゴッゴッゴッゴッと到着する

路地の家も、色あせた木造の家だった。

なるほど、なるほど、太海の漁村の寂れ具合といい、ちょっと胡散臭いような仁右衛門島といい、

これは、つげ義春が好みそうな場所なのである。後につげさん自身もこう語っている。

「当時の太海は、ひなびた漁村で、外房では最も好きなところだった」と。

 

「ねじ式」では、メメクラゲに腕を刺された主人公が医者を探して村をさまよい歩いた。

しかし、歩けど歩けど医者はみつからない。業を煮やした主人公は、線路づたいに

隣町へと向かい、たまたま通りかかった機関車に乗ったが、

その機関車は、なんと元の村に戻ってしまうのであった。

まあ、なんせシュールなマンガなので、そんなふうにストーリーを説明しても、

あまり意味がないかもしれないけど、

ただ、実際、太海の漁村を歩いてみると、小さな路地や、脇道や石段が入り組んでいて、

なんていうか、まさに迷ってさまよい歩くのにぴったりな村なのである。

 

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さっそく例の機関車が到着する路地へ行ってみよう。

ストリートビューで下見したので、だいたいの場所はわかっている。

…ていうか、ストリートビューで下見してしまったがために

歩きながら見る風景、見る風景がいちいちデジャヴみたいに見覚えがある。

う~ん、ストリートビューなんか見るんじゃなかったな…

 

と、軽く後悔しつつ、歩いていたら、古めかしい不格好な石段があって、

その先に石の鳥居と小さな祠が見える。

これはなんかグッとくる。登らないわけにはいかないねえ。

かなり急な石段を登りながら、お年寄りにはそうとうキツそうな石段だけど、

信心深いおばあちゃんとかが毎日登ったりしているんだろうなあ…

なんて想いながら、上まで登った。

いや、これ、ホント急ですよ。降りるのがちょっと怖いくらい。

つげさんも登ったのだろうか?登ったんだろうなあ。

 

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石の鳥居の向こうには津嶋神社と書かれた小さな祠があった。

ただ祠があるだけで、神社の縁起とかそういったものは一切なかったけど、

なんか“地元の人に大切にされている感”があって、実に感じるものがあった。

 

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さてさて、じゃあ、例の路地へ行こう。

ここからはもう目と鼻の先だ。

というわけで、ちょっと歩いただけで、いきなり例の路地はあった。

 

しかし…

なんと、路地の両脇に車が駐車していているではないか!

これじゃあ、写真を撮っても、さえない。

これじゃあ、“あの路地”の迫力がまったく感じられない。

 

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いやぁ、でも、またこういうさえない展開もつげさんっぽいのかなぁ、と、

変な納得をしながら、かねてから知りたいと思っていたことを確かめるために、

路地の奥へといくために石段を登ってみた。

 

え?

はたして、この路地には奥なんかなかった。

…ていうか、そもそもここは路地なんかじゃなかった。

石段の奥にまだ道が細くつながっているかのようなその奥は行き止まりで、

太海の集会所と民家がギュッと隣接して建っているだけだった。

 

しかし、よくもまあこんな場所から機関車が出てくるなんていう場面を

思いついたものだ。

つげさんの創造力の得体のしれない奥深さを感じた瞬間だった。

 

ちなみに…車が止まっていてみえないけど、この石段には

こんなプレートが貼ってある。

“つげ義春”ではなく、“つげ義治”と漢字が間違えられて書かれているところが、

残念というか、いや、これもまた、つげさんっぽいというか…(笑)

 

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さて、温泉へ行こう。

まずは、漁村の中にある「こはら荘」へ。

太海で日帰り入浴できるところは数カ所あるが、

「こはら荘」は、その中で唯一のひなびた民宿の温泉である。

昭和のモルタルづくりのアパートみたいな外観に味を感じる。

入浴料を500円払って、さっそく内湯へいく。

 

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湯船は水色のペンキ塗りで、まわりを岩で岩造り風に飾られていて、

ライオンの頭のカランがポツンとある。お湯は出ていない。壁は装飾タイル貼り。

なんか全体にミョーな中途半端感があって、それがある意味、味があるというか…、カワイイ。

うん、きらいじゃないよ。こういうノリ♡

 

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お湯は薄茶色の湯。かすかな硫黄臭があって、

つかってみると、まとわりつくような、ぬめりがある。

なかなか個性的なぬるぬる感ではないだろうか。

やりますねえ、太海の温泉。

けっこう広めの湯船で、ちょうど先客と入れ違いで、独泉できました。

ひなびた漁村で、こういう温泉を独泉できる昼下がり…

幸せなものがありますね。

ちなみにこの「こはら荘」は一泊二食で7,020円。素泊まりで3,240円。

なんせ漁村の民宿ですから、きっと魚とかおいしいんだろうなあ。

 

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次に向かったのが曽呂温泉。

駅前のタクシー会社の看板に「曽呂温泉」と載っていたので、

気になってスマホで検索してみたら、

なんでも曽呂温泉は千葉県最古の温泉なのだそうだ。

なぜ曽呂温泉という名前なのかというと、かつてこの辺りに僧侶が多くいたそうで、

その僧侶らがこの地を去ったので、「僧侶」の「人編」を取って「曽呂」になったとのことで…

まあ、大きなお寺があったのですかねえ?なんかよくわからないけど、いわれのある温泉のようです。

距離は太海駅から約4.7kmの距離。まあ、歩けない距離ではないけれど、

タクシー会社の前ということもあり、

タクシーを電話で呼んで向かってみた。

 

曽呂温泉は連なる棚田の奥にある民宿というか農家のような一軒宿だった。

ザ・ニッポンの正しき里山風景とでもいいたくなるような、風景の

奥に、樹木に隠れるように宿があった。

あ、なんかいいなあ、こういう感じ。

 

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日帰り入浴の入り口は、玄関とは別に勝手口みたいな感じにまた別ある。

そのドアを開けて、誰もいなかったので、すみませ~ん!と声をかけてみた。

なんの反応もないのでもう一度、ごめんくださ~い!

 

は~い!という声があって、おばちゃんが現れた。

日帰り入浴をしたい旨を伝えると、

 

ああ~、あたしもお客さんなんよ。ばあちゃん、今、お風呂入っているから、

勝手に入っちゃっていいんじゃない。すぐ戻ってくるからさあ。

 

と、どうやらそのおばちゃんは、

風呂あがりに休憩室でひと休みしていた常連さんのようだった。

 

おばちゃんのアドバイスに従い、勝手に入ることにして、浴室へ向かった。

浴室の入り口には卓球台が置いてあったりして、好感度が上がる。

 

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浴室はほどよくひなびたタイル貼りの空間。

お湯はコーヒーのような濃い茶色の湯。こはら荘よりもあきらかに濃い。

つかってみると、茶色い湯の花が湯の中で揺らめいた。

湯質もぬるぬる感がすごい。

う~ん、こういう湯は他ではあまり味わったことないなあ。

まさか千葉の外房で、こんな個性的な湯に出会えるとは思っても見なかった。

網戸越しの開け放った窓からは、畑が見える。

鳥たちがさえずる声が聞こえてきて、なんとも、のほほんな気分になる。

 

こりゃあ、いいねえ。

 

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しばらく至福の時間を味わいながら思った。

たまたま、つげさんの「ねじ式」に縁がある太海に来たのが、今回の旅の動機だった。

でも、本来の目的ではなかったところに、

たまたまこんな当たりクジみたいな温泉があった。

う~ん、これだからねえ、無計画なゆる旅はやめられないんだよなあ。

 

大満足で湯を出ると、

入り口の廊下のテーブルにおばあちゃんが座っていたので、

入浴料を払う。ちょっと高めの1,000円。

まあ、あの個性的な湯に入れたんだからね。いっか。

 

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帰りはあえてタクシーは呼ばずに、

美しい棚田の風景の中を歩いて帰った。

カエルがゲコゲコないていて、ホント、のどかだ。

癒やされますねえ。

この田んぼの風景は今も昔もそんなに変わっていないんだろうなあ。

そんなことを思いながら、その昔の曽呂温泉、僧侶がたくさんいた里山の風景を

思い浮かべようとしてみたけれど、

変にシュールな光景しか思い浮かばなかった。

 

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■こはら荘/入浴料500円

千葉県鴨川市太海2288

電話:04-7092-1080

 

■曽呂温泉/入浴料1000円

千葉県鴨川市仲町90

電話:0470-92-9817

 

記事:ショチョー

※当サイトのすべての文、画像、データの無断転載を堅くお断りします。  

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2015-07-19 | Posted in 関東/中部No Comments » 

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