山頭火ゆかりの本物レトロ温泉街/日奈久温泉・柳屋
【熊本 日奈久温泉・柳屋】
日奈久温泉に惹かれる理由のひとつに、
このひなびた温泉街が、種田山頭火ゆかりの地であるということがある。
高倉健の遺作映画「あなたへ」で、
ビートたけし演じる指名手配の車上荒らしの男がこんなことをいっていた。
旅と放浪の違いは目的があるかないかだと思う。
その意味でいえば、芭蕉は旅で、山頭火は放浪だった。
だから山頭火はいまだに人を魅了してやまないんじゃないんですかねぇ。
旅に生きたわが国の詩人の系譜といえば、西行にはじまり芭蕉、
山頭火と続くわけだけれど、そのなかで山頭火だけは、旅というよりは、
得体のしれない業を背負ったような救いのない放浪のように思えて、
それゆえに山頭火が詠んだ句は、たとえば「まっすぐな道でさみしい」とか、
「生死の中の雪ふりしきる」とか、「こほろぎに鳴かれてばかり」とか、
それらを詠んだ山頭火の心情を思い浮かべて味わうと、
いよいよ尋常ではない業を感じさせる句となって胸に迫ってくる。
今回、宿をとったのは柳屋さん。
温泉街のからくり時計がある広場の前にある、
いわば日奈久温泉の玄関口にたっているような老舗の宿だ。
日奈久温泉といえば登録有形文化財にも登録されている木造三階建ての金波楼が
有名だけれども、柳屋はその金波楼よりも古い老舗旅館である。
柳屋の創業は明治22年。
日奈久温泉の玄関口の旅館としてかれこれ130年近くも営業している。
でも、そんな柳屋が登録有形文化財に登録されることは決してないだろう。
それというのも、柳屋はたしかに明治や大正の面影を残した味わい深い木造の旅館なんだけど、
たぶん、金波楼のように、いにしえの文化を今に伝えるみたいな意識はゼロ。
時の過ぎゆくままに今日に至ったって感じの宿なんですね。
たとえばファサードはこんな感じ。
でも、ちょっとノリが違うこんなところも。洋風?
で、別の角度から見ると、んんん?ここやっているのか?みたいな廃墟チックな
ところもある。
でもねえ、ひな研的には、そんなところにですねぇ、ググっときちゃうんですねぇ。
そんな柳屋は宿泊料も安い。
今回は夕食なし朝食付きで一泊のプラン。で、なんと一泊3,800円!
(2016年7月時の値段、現在は6500円に値上がりしました)
ほとんど湯治向けの宿なみのお値段なのであります。
ちなみに部屋はこんな感じ。
そして要所々々に明治・大正の匠の技を感じさせる欄間や格子などが
あるところは、さすがは老舗の旅館。
これで一泊3,800円は、どうです?すごくないですか?
柳屋へは19時過ぎと遅い時間に着いたので
さっそく風呂へ向かいつつ、館内を探検。
う~ん、やっぱりいいですねえ。長い時を経た木造建造物は。
どこ見ても空間に時間が染み込んでいる感じで、
つくりものではない、ホンモノのレトロ感を醸し出していますね。
とくにグッと来たのが階段。以前、知り合いの建築家さんが
「階段は空間にドラマをあたえる」なんてことをいっていたけれど、
まさに柳屋の階段はドラマフル。
踊り場に置いてある古いシングルソファがいい味出している。
突きあたりの廊下の窓からは金波楼の立派な建物が見えた。
柳屋の館内は熊本地震の影響で、ひび割れなど、ところどころが
被害をうけていた。
部屋に案内してくれたご主人は「まあ、しょうがないよねぇ」と
明るく笑っていたけれど、その心中は察してやまない…
柳屋の風呂は離れにある。
中庭の通路を通って行くと、色あせた古めかしい暖簾がかかった風呂場がある。
これがまた渋い味わいを醸しだしているのだ。
湯船は2人入ればいっぱいのちいさなものがふたつ。
かけ流しの湯がオーバーフローして、もうひとつの湯船に
注がれるので、自ずと湯が注がれている湯船の湯は熱く、
もうひとつの湯船の湯は若干ぬるめになる。
湯はさっぱりした弱アルカリ単純泉。
湯治の湯として600年間以上愛されてきた湯だけあって、
さっぱり感がとても身体に心地よい。
さすがは山頭火をとりこにした湯なだけあるといいたい。
地震の影響で日奈久温泉全体の客足はやはり激減したという。
そのせいか柳屋の宿泊客も自分一人で貸切状態だった。
お湯はこんなにも元気なのになぁ、と、思わず切なくなってくる。
まあ、でも、せっかくだからこの貸切状態を満喫しよう!と、
その晩はもちろん、早起きして朝湯も心ゆくまで満喫した。
翌日は日奈久温泉の町の散歩を楽しんだ。
この温泉街は実にひなびたいい味を出しているのである。
過去の日奈久温泉の記事「ひなびのワンダーランド/日奈久温泉・鏡屋旅館」
共同浴場や温泉神社、竹輪屋巡り等々、
日奈久温泉の散歩の楽しみどころはいろいろあるけれど、
今回は路地裏の神さま巡りをしてみた。
そう、日奈久の温泉街には古くから
目の神さまだったり、歯の神さまだったり、芸の神さまだったり、
いろんなユニークな神さまがおわしましているのである。
そもそも路地裏自体が歩いていて楽しい。味わい深い。
なので、日奈久温泉に行かれる方には神さま巡りをぜひおすすめしたい。
狭いけれど味わい深い。まずは、そんな商店街を歩いていく…
名物の竹輪屋の自動竹輪焼き器なんかに目を奪われながら…
ひなびた情緒を味わいながら…
ときにはこんな路地ををすり抜けて…
すると、ところどころで神さまに出会えるのである。
芸の神さまの弁天様。
石を彫った素朴で味わい深い恵比寿さま。
大漁の神さまである恵比寿さまが多いのは、やはり海辺の町ならではか。
こちらは目の神さま。
こちらは歯の神さま。
なんと、手足の神さま!足手荒神。
小さく素朴ながらも神性を感じてやまない金毘羅さま。
こちらは…え〜と、なんだったっけ?(^^;)
…と、どうです?味わい深いでしょ?
時間が止まったかのような十数軒の宿と
地元の人と触れあえる共同浴場、そして素晴らしい湯。
味わい深くフォトジェニックな路地裏散歩等々、
日奈久温泉は、歩くのがとても楽しい温泉街なのである。
カメラを片手にブラブラと、温泉巡りをしながら、気ままにのんびりと、
もちろん、歩くときは名物の竹輪を食べながら歩こう。
お約束、ですよ。
日奈久温泉を歩く人はぜひこのマップを!>>>ダウンロードする
■柳屋
熊本県八代市日奈久中町326
0965-38-0125
記事:ショチョー
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コメント3件
hinaken | 2017.01.14 19:37
コメントに気がつかず返信が大変遅くなりました。。。
申し訳ございません。。。
日奈久の温泉街はゆるくていいでしょう?(笑)
ところどころに小さな祠があって、神さまが祀られていたりして
そんなところもいい感じです。
ちくわ食べましたか?おいしいですよね!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!温泉バンザイ!^^
藤本 卯季子 | 2018.01.10 22:48
日奈久温泉の柳屋旅館は私の親戚にあたります。かれこれ50年前小学生だった頃より変わらないまま今に至っている懐かしい温泉町です。私は東京生まれの東京育ちでしたがこの懐かしい日奈久は1年に一回父の故郷でしたので来ていました。もうひとつ親戚にあたりますが、趣きある旅館がありますのでご紹介いたします。幸が丘旅館です。お湯は一番だと思います。
ただ、残念なことに食べるところが今はほとんどありません、そこだけがもったいないですね。
楽しく拝見しています。
日奈久温泉行ってきました‼
ショチョーさんの記事がとても気になって、一体どんな古ぼけた町なのか確かめたくて。
イヤー想像以上に人がいなくて、町全体が眠りこけたような感じで、やる気全く無さげが可笑しかったです。
竹輪2本買ったらオマケで1本くれちゃうし、金波楼の前では子供たちが道路に落書きしてるしで。
でもお湯はいいですね。
今回入った東湯は湯加減といい潮の味わいといい、安さといい、お気に入りな銭湯でした。