湯口がチンな珍湯は極上湯だったの巻/庄川湯谷温泉

【富山県 庄川湯谷温泉】

いやはや、いったいなにがどうなればこうなってしまうのか?

世の中にはそういうようなことがあるけれども、

そういう温泉が富山県の砺波市にあるのだ。庄川湯谷温泉。

なんてったって、ここ、浴室が水没しちゃっているのだ。

もう一度言おう。浴室が水没しているのである。

そんな状態、あなたは頭に思い浮かべることができますか?

高岡駅からバスにゆられて湯谷口で降りて10分ちょっと歩くと

「湯谷温泉バス停」と書かれた今は使れていない小屋がある。

その裏手あたりに細い下り坂があるのでそこを降りていく。

するとちょっと古めかしい木造の旅館っぽい建物がある。

でも、なんだかひっそりとした感じ。まるで営業していないみたいな。

それもそのはずで、ここはもともとは旅館だったけれども、

今は日帰り入浴のみの温泉施設になっているのだ。

しかし、看板もなにもない。

ここが入浴できる温泉施設であることは、

まさに知っている人にしかわからないのだ。

玄関に入るとスリッパが並べられてあって、

料金を入れる塩ビのカゴがある。

無人の温泉施設は珍しくないけれども

こういうふうに旅館の広い玄関にぽつんとカゴが空いてあるのは

なんだか新鮮で不思議な感覚。

「温泉は廊下づたいに行きコンクリートの階段を降りて下さい」と

書いてある貼り紙にしたがって廊下を歩いていくと

途中にビールの自販機があって、壊れたマッサージチェアが置いてある。

おお、湯上がりはここでビールを飲むとしよう。

キジさんもいるし、フクロウさんもいるし。

さらに歩いていくと、コイン式のガスコンロが並んだ

調理室なんかがあったりして、

ここがかつて自炊で泊まれる宿だったことがうかがえる。

いやぁ、ぜひ自炊で泊まってみたかったなぁ。

やがて廊下は突きあたり、曲がっていくと下へ降りていく階段が現れる。

その奥がブルーシートで覆われている。

なんでも、平成16年の台風23号の被害で、建物の一部が

流されてしまったとのこと。それが10年以上たった今もなお

そのままになっているのである。

でも、こんなことをいうのもアレかもしれないけれど

このブルーシートの空間が、水没した浴室がある摩訶不思議な温泉への

入り口を演出してくれている感じで気持ちも盛り上がってくる。

さしずめブルーの異界の入り口というやつですかね。

ブルーシートの空間の奥にはコンクリートづくりの

簡素な脱衣所があって、浴室のドアがある。

それを開けてみるとさらに下へ通りていく

コンクリートの階段があった。

おおお、階段で降りていく浴室ってテンションがあがる。

しかもドボドボドボ〜!という、すごいかけ流しの音らしきものが

聞こえてくるではないか。

脱ぎ捨てるように服を脱ぎ

いそいそと階段を降りていく。すると……

おおおおお!本当に浴室全体が水没している!

いや、事前に知っていても実際に目の前にしたときの

インパクトはすごい。感動だな、これは!

で、よし、さっそく湯につかろうと思ったときに

あることに気がついた。

ん?かけ湯をする場所がない……

だって、浴室全体が水没しているのだからね。

温泉ファンの誰もがそうだと思うけれど、

かけ湯をしないで湯につかるなんてもってのほかのこと。

マナー違反の最たるものだ。

でもここではそれをせざるを得ないのである。

意を決してそのままざぶざぶと湯船につかった。

というわけで背徳心にさいなまれたのもつかの間、

湯につかったとたんにフレッシュな浴感に身体が包まれた。

ほのかな硫黄臭がある無色透明のぬるめの新鮮な源泉。

いや、これだけ源泉がドバドバとでているのだから

湯もめっちゃ新鮮なのだ。すごいな、ここの湯は。

まるで大砲から源泉が豪快に放出されているような惚れ惚れする光景。

いや、大砲ではない、これはまさしくチンではないか。

いやはや、まったく、なんと、まぁ!

湯口は手で上下に動かせる可動式になっていて、

しばらくその湯口を動かしていたら

他のお客さんが入ってきた。

どうも、こんにちは。

でも、チンな湯口をいじっていたところだったから

なんだかバツが悪い(笑)

その方は地元の砺波市の方でよくここの湯につかりにくるとのこと。

しばらく世間話をしていると、さらに二人のお客さんが

入ってきた。お二人は今日は温泉巡りをしているとのことだ。

それほど大きな湯船ではないので、自然と会話が生まれる。

いや、会話が生まれるのは湯船の狭さのためだけではない。

話題はいやおうなしにチンな湯口へと移っていく。

自分も入れておっさん四人が集まるとやはりこれに触れずにはいられない。

豪快に源泉を放出するチンな湯口をしげしげと見つめながら、

「いやあ、男としてうらやましいもんですなぁ、ハッハッハ」と。

これまでにも、この男湯ではそういう会話が何度もかわされたに違いない。

しかし、水没した浴室といい、チンな湯口といい、

なんともユニークな温泉だけれども、

浴室全体もコンクリートの箱みたいな感じで

“籠もっている感”があって不思議な感覚だ。

湯も長くつかっていられるぬるめの湯で浴感が心地よく、

なんていうか胎内回帰して羊水につかっているようだ。

う〜ん、ここは間違いなく忘れられない湯になるなぁ。

摩訶不思議な極上湯をたっぷりと堪能し、

湯上がりのビールを頂いた後、

近くにある小牧ダムに寄ってみた。

ダムの上から庄川が一望でき、庄川湯谷温泉の建物も見えた。

木造の宿泊棟から川へと降りる階段があって、

例のブルーシートの覆われた部分があって、

その先に丸っこい不思議な形をしたコンクリートづくりの浴室がある。

どことなく「風の谷のナウシカ」に出てくる王蟲の頭を想わせる。

なるほど、あそこに籠もっていたんだなぁ。

その瞬間、あの胎内回帰したかのような不思議な感覚が

なんとなく腑に落ちた気がした。

 

■庄川湯谷温泉
住  所:富山県砺波市庄川町湯谷235
電  話:0763-82-0646
入浴料金:500円(9:00~16:00/木曜日定休)

記事:ショチョー
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2018-07-22 | Posted in 関東/中部No Comments » 

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