鉄輪温泉で異空間度抜群な共同湯に出会う。/谷の湯、すじ湯他
【大分 鉄輪温泉 谷の湯、熱の湯、すじ湯、渋の湯】
昭和のドラマ「特捜最前線」の刑事たちが張り込んでいた
ボロいアパートみたいな共同浴場がある温泉街…
それが自分にとっての鉄輪温泉なのである。
なんでそのようなミョーなイメージをもっているかっていうと、
鉄輪温泉は、大好きな写真家の藤原新也さんが思春期を過ごした地でもあって、
そんな藤原さんの自伝小説的写真集「鉄輪」に出てくるんですね。
「特捜最前線」に出てくるアパートみたいな共同浴場が。
こんなふうに。
どうです?この佇まい、グッときませんか?
門司港で営んでいた家業の旅館が立ち行かなくなって、
破産の果てに家族無一文で流れ着いた町が鉄輪だった。
当時、高校生だった藤原さんは、この谷の湯で旅芸人と出会って、
自分も旅芸人になりたいと思うのだけど、
「そんなんあかんよ。苦労するだけや」と、諭される。背中に観音様の
彫り物をしている旅芸人はいう。「ボン、これからは
やっぱり学がないといけんで。がんばるんやで…」と。
藤原さんの「鉄輪」に描かれていた鉄輪温泉は、
怪し気な場末感をまといながらも、なんとも人間臭い町だった。
というわけで、来てしまいました、鉄輪温泉へ。
目的は、あのボロアパートみたいな谷の湯をはじめとした共同浴場めぐり。
ま、でも、せっかく鉄輪温泉に来たのだから名物地獄めぐりもしておこうと、
まずは白池地獄に向かってみた。
噴出しているときの湯は無色透明なのに、池に落ちると
青みがかった白色になる白池地獄。
いやあ、なるほど、これは自然の神秘って感じですねえ。
でも、それはそれとして、この白池地獄でグッときたのは敷地内にある、
温泉熱を利用したという熱帯魚館だった。
まず、入り口のこの看板。「人喰い魚ピラニア」。
なんていうか、この看板自体が人を喰っているところにグッとくる。
昔の縁日の見世物小屋の「へび女」とか「オオイタチ」に通じるものがある。
しかし、アマゾンの魚といえば、ピラニアだけじゃない。
そう、世界最大の淡水魚ピラルクを忘れてはならないのです。
つかみは人喰い魚ピラニア。大トリはアマゾンの大王魚ピラルクなのだ。
で、「このガラスは拡大鏡ではありません」という注意書きにグッとくる(笑)
さてさて、共同浴場めぐりに移りましょう。
まずは、やっぱり「谷の湯」へ。
鉄輪温泉には共同浴場が点在している。
それらの湯は無料や100円や200円でつかることができるのだ。
「谷の湯」は通りから一本道が外れた住宅地の中にあった。
藤原新也さんの写真そのまんまの姿で。
う~ん、どうですか、この存在感!
入浴料は100円。
料金箱に雨樋が突っ込んであって、そこに100円を入れるのだ。
いい感じだねえ。
男湯のドアを開けると、
やはり外観と通じる激渋な共同湯空間がそこにあった。
古びたコンクリート造りの浴槽は3~4人で一杯ぐらいの大きさ。
溶岩みたいな岩の上に不動明王みたいな仏像が祀られていて、
これがまた、激渋な雰囲気を強烈に醸し出している。
異空間度、そうとう高いです。「谷の湯」は。
湯は無色でちょっと熱め。身体にじわりとくる感じ。
うん、いい湯だな。湯のよさと異空間の雰囲気があいまって、
これは忘れられない入浴体験になりそうだ。
風呂を上がって、表に出たところで、
「谷の湯」を管理しているおばちゃんと立ち話したところによると
鉄輪温泉の源泉はすごく熱いけれど、
ここ「谷の湯」の湯はそのままでもちょうどよく、また肌にやさしいのだそうだ。
やっぱり地元の人に愛されている温泉は間違いないですね。
次に向かったのが「熱の湯」である。
道すがらに、鉄輪温泉評判の地獄蒸し豚まんを買って食べた。
熱!でもうまい!温泉街で歩き食いって、なんか心が解き放たれていいね。
「熱の湯」はなんと無料の温泉で、
ここ鉄輪温泉でいちばん古い共同浴場なのだそうである。
といっても「谷の湯」を見てしまった後では、
いちばん古いといわれてもそうは見えないのだけど、たぶん建て替えたのだろう。
鉄輪温泉の源泉は熱いと聞いていたし、「谷の湯」もやや熱めだったし、
なんせ「熱の湯」と名乗っているんだから、さぞかし熱いのだろうと思って、
エイヤッと覚悟して「熱の湯」の湯につかったら、んんん?むしろぬるいくらい?
でも、これはこれで、ゆったりじっくりゆにつかれて悪くない。
なんてったって、無料なのである。う~ん、うらやましい。
次に向かったのが「すじ湯温泉」だ。
いやあ、この湯がすごかった。
入浴料は100円。
入り口にある神棚と仏壇と賽銭箱をかけあわせたようなところに100円を入れる。
そして男湯の扉を開けると、
え?一人のおじさんが湯船にうずくまるように腰掛けて微動だにしない。
じゃましないように、そぉ~っと、風呂桶で湯をすくって身体にかけたら、
熱っ!
自分はそれほど熱い湯は苦手じゃないけれど、
これはちょっと躊躇する熱さ。
でも、せっかくだからと湯に使ったら、やっぱり熱っ!ダチョウ倶楽部級に熱っ!
それでも我慢して湯にしばらくつかったのだけど、
これは長湯したら身体が煮えちゃう。ギブアップして湯から上がって
思わず湯船にうずくまるように腰掛けて呼吸を整えた…
あれ?これじゃあ、まるで、さっきのおじさんのようじゃないか…
ていうか、さっきのおじさんはいつのまにかいない…
ていうか、周囲のことなんかどうでもよくなるくらいに
熱かったから、おじさんが出ていったことにきづかなかった…
なるほど、あのおじさんの微動だにしないポーズの合点がいった。
もう、そうするしかないのですよ。
熱い湯だから、湯から上がってもなおじわじわとくる。
それをうずくまるようにして、じっと受け止めるのである。
でも、これがなかなかの快感なのですね。
近所にこんな湯があれば、毎日は無理だけど、
月に数回は覚悟を決めて、つかりたくなるような刺激的な熱い湯なのだった。
最後に向かったのは「渋の湯」である。
その名の通り渋い湯なのかというと、いやいや激渋な「谷の湯」にくらべれば、
それほどではない。思うに「熱の湯」といい、
鉄輪温泉における温泉の名前はあてにならないのかもしれない(笑)
入浴料金はここも100円だ。
「渋の湯」の特徴は湯船の脇に竹製の冷却装置が
備え付けられているところだろう。
鉄輪温泉の源泉は前述したように熱い。100℃近くもあるそうだ。
そのため冷まさないととても熱くて入れないというわけで、
冷却装置がついているわけだけど、湯船の脇についているのは珍しい。
いやあ~「渋の湯」も、いい湯だった。
鉄輪温泉の湯は塩化物泉で塩分を多く含んでいる。
塩分が多いと熱さを感じやすくじわりとくる。で、湯冷めもしにくく、
それでいて鉄輪温泉の湯は弱酸性なのだという。そう、お肌にやさしい。
さすがは別府八湯を代表する湯というべきだろう。
「渋の湯」を出たところに「湯かけ上人様」の石像があった。
鉄輪温泉を開いたのは、踊り念仏で有名な一遍上人である。
時をさかのぼって鎌倉時代、一遍上人が念仏行脚の途中に訪れて、
噴気たけ狂う地獄のような地を鎮めて開いたのが鉄輪温泉だったという。
なんとも謙虚な感じの一遍上人石像。
この像に、自分の身体の悪いところに湯をかけると治るというので、
迷わず頭にかけた。少しはよくなりますように…。
鉄輪温泉は湯もすばらしいけれど、
町並みもいいですね。
いたるところから湯けむりがもうもうと立ち上がっていて、
それが懐かしい感じの町並みとあいまって、いい情緒を醸し出している。
鉄輪温泉は寅さん映画のロケ地でもありました。
山田洋次監督は、この町並みをこよなく愛したと聞く。
わかるなあ。
なんていうんだろう。メジャーな温泉地でありながら、
ここ、鉄輪温泉にはそこかしこに、昭和な温泉地の
おおらかな味が染みこんでいて、ぶらぶらしているだけでも、なんかいい。
歩いているだけでひたれるのである。
「そんなこというなよ〜、おめえさんよぉ」とかいいながら、
曲がり角から寅さんがいきなり現れそうな町並みなのだ。
記事:ショチョー
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